第319話 賢者が魔王に
魔王の正義感。矛盾をしているわけではないが、不思議な言葉である。冨岡が軽く首を傾げ、表情で話を催促した。
その話は六年よりも前に遡る。
「この国の研究機関、なんて言い方をしたが、国王様が設立したわけではないのさ。とある貴族様が圧倒的な権力を得るために、新しい魔法の開発を進めていた。もちろん名目は、魔法開発による国民の生活水準の向上だね。魔王もその頃はそう信じていたらしいよ。だが、それだけの嘘はいつか暴かれるもの。真実を知った魔王は、とある貴族様を止めようとした」
サーニャはそう言ってから、持っていたグラスを置いた。コンという音が鳴り、話の切り替わりをわかりやすく示す。
「しかしその貴族は行動を改めるどころか、魔王を突っぱねたのさ。そのうちに魔王が目障りになったんだろう。あろうことか国家反逆罪の疑いを魔王にかけ、最終的に追放・・・・・・そりゃあ、魔王が激怒するのも仕方ないって話だね」
話を聞きながら冨岡はサーニャだけでなく、レボルやアメリアの表情も窺っていた。
そこに驚くような素振りがないことから、この話は誰でも知っているようなものだと推察できる。
初めて聞いたのは冨岡だけらしい。
「それが魔王の正義感ですか? そのせいで魔王は魔王に成った・・・・・・」
冨岡が問いかけると、サーニャは気だるそうに頷く。
「始まり、と言ってもいいだろうね。だが、追放された魔王はまだ恨みを抱いちゃいなかった。魔法の研究自体は個人でもできるし、ただ職を失っただけの話さ。国を恨んで行動するには、少しばかり足りないと思わないかい? 動機ってやつがね」
罪を着せられ、職を失ったが、追放されただけで全てを捨てていいほどの絶望とまでは言えない。
国中に悪名を轟かせるような行動に出るほどではないだろう。
「じゃあ、まだ何か魔王に対して理不尽なことを?」
冨岡が問いかけた。
「そうだね。追放された魔王は開発した魔法によって魔物を狩り、緩やかに暮らしていたそうだよ。決して裕福ではなかったが、幸せな生活だったんじゃないかな。何せその頃、愛する女性と結ばれたと言われているからね」
「女性と・・・・・・追放されたショックから立ち直ったってことですね」
「ああ、だがその幸せはいとも簡単に壊されてしまったの。ほら、魔王は研究機関の全てを知っているだろう? そんな存在をよく思っていなかった貴族様は、追放した後の魔王を追いかけ続けていた。魔王の弱点を突くために・・・・・・ね。結ばれた女性は明確に魔王の弱点だって言えるだろう。そこから先は想像つくんじゃないか? 魔王がこの世の全てを恨むほどの事件を貴族様が起こしたって話さ」
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