第318話 魔王の誕生

 ゲームや漫画の中には度々『テイマー』という職業が出てくる。

 魔物をテイムすることで心を通わせ、指示を出すことが可能になる職業だ。それだけ聞くといかにもファンタジーらしく夢がある。

 しかし、レボルが言ったように幾千もの魔物を一人の意思で動かせるとすれば。

 冨岡の脳内に、見たこともない凶暴な魔物が群れを組んで、押し寄せてくる映像が浮かぶ。小さく身震いしながら、冨岡がレボルに問いかけた。


「それは・・・・・・確かに。魔王と呼ばれるに相応しいのかもしれませんね。その、魔物の扇動は実際に行われたことなんですか?」

「ええ、行われました。とは言っても、街や都を襲ったというわけではなく、魔物の大群によって小さな森が真っ平にされた、というだけでしたが」


 レボルの答えを聞いた冨岡は、真っ平らになった森を想像する。森林が破壊され環境には良くないだろう。また、魔物たちの権利も犯されているかもしれない。だが、人間側に大きな被害ない状況だ。

 林業を営んでいたブルーノを知っているので、森が破壊され困る人間がいることはわかっている。だが、それだけで魔王と呼ばれるだろうか。


「森を平らに・・・・・・それが原因で魔王と呼ばれているんですか?」


 冨岡が再度質問すると、次はサーニャが答える。


「考えてごらんよ、トミオカさん。それは実験さ」

「実験・・・・・・ですか?」

「例えば、の話だけどねぇ。私は火魔法が苦手なんだ。そして私がトミオカさんに恨みを抱いているとする。そんな私が、この教会の近くで火魔法の練習をした。その後、教会の隣にある空き家を消し炭にすれば、トミオカさんはどう思う? この段階ではまだ、誰も被害は受けていないよね」

「そうですけど、次は教会が燃やされるのではないか、と考えてしまうかもしれません」


 強力な武器を所持している、という誇示と威嚇を兼ねた実験。

 森の次はどこかの街が平らにされる『かもしれない』と考えるのは、それほど不思議なことでも理不尽なことでもない。

 話を聞き、納得した冨岡は「なるほど」と頷いた。

 

「まぁ、それだけで魔王なんて仰々しい名前で呼ばれることはないよ」


 サーニャの話は続く。


「魔王は元々、賢者と呼ばれていたのさ。この国の研究機関に所属する魔術師でね、個人では到達できないほどの魔法を身につけたと言われている。いや、到達してはいけなかった、が正しいかもしれないね。強大な力を手に入れてしまった魔王に対し、研究機関は破格の待遇で手元に置いていた。けれど、結果的に魔王は追い出された」

「どうしてですか? そんなの恨みを持つに決まっているじゃないですか」

「ああ、そうだねぇ。子どもにだって想像できる話さ。でも、研究機関のお偉方は想像できなかったんだろう。だが、その件に関しては魔王の正義感が原因だって話だよ」

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