第317話 魔王
するとサーニャは、優しくリオの頭を撫でてから微笑む。
「これからここで世話になるんだ、この子に何があったのか知っていることは大切だろ? それを知られている、とリオが知っておくこともまた大切さ。むしろ大人の都合でこの子に隠し事をする方が、後で不信感を募らせてしまう。今ここで話を聞いてもらっていた方が、リオにとっても安心だろう?」
確かにサーニャの言う通り、既にリオは大人に対してある程度の不信感を抱いている様子だった。ここでリオの話をすることはむしろ誠意ある行動なのかもしれない。
またサーニャの話を聞いたリオは、否定的な動作をするわけでもなく、ただ黙っていた。
一度確認したという様子のサーニャは、何の問題もない、と言わんばかりに話を進める。
「さて、どこから話そうかね」
語り始めるサーニャ。
その話は六年ほど前に遡る。それは轟々と風の音が鳴り止まない夜だった。
まるで世界そのものが怒り狂っているかのような暴風。それこそ、世界の歴史に刻まれているほどの夜だったらしい。
「まさかその日って『魔王の終焉』・・・・・・」
話を聞いていたレボルが口を挟む。不穏な言葉を二つ重ねた単語に、冨岡は息を呑んだ。
「何ですか『魔王の終焉』って」
冨岡が問いかけると、サーニャは空になったグラスを持ち上げて見せる。
「その話をするには、もう少しだけ酒が欲しいところだね」
「大丈夫ですか。酔いすぎて喋れなくなったりしません?」
「ははっ、むしろ酒を飲んだ方が舌は回るもんさ」
サーニャに要求された冨岡が日本酒を注ぐと、彼女は話を進めた。
「トミオカさんがどこの生まれかは知らないが、この辺じゃあ魔王と呼ばれている男がいたんだ」
「魔王って、魔族の王ってことですか?」
「魔族? 何を言っているんだい。御伽噺や伝承じゃあるまいし、魔族なんて出てこないさ」
そう笑われた冨岡は、どうにも腑に落ちない気持ちになる。自分からすると魔法のあるファンタジーな異世界にいるというのに、魔族という単語を出しただけでファンタジーを夢見る男扱いだ。
そんな気持ちを受け入れて、サーニャの耳に話を傾ける。
「魔王ってのは、魔法に狂った男に付けられた悪名だよ。昔の話って言ったって、たった六年前だからね。信憑性の高い話がいくらでも残っている。例えば、魔物の扇動」
「扇動?」
冨岡が聞き返すと、サーニャより先にレボルが答えた。
「魔物を操る、という魔法の開発を成功させたって話ですね。車を引かせるフォンガですら、完全に操ることはできていません。幼体から育て、躾けることである程度言うことを聞かせることが可能になる、という程度です。想像してみてください、幾千という魔物を一人の人間が操る。それは一国の軍を率いることとそう変わらないでしょう」
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