第315話 アメリアとサーニャ
いきなり求婚された冨岡は、気道を強く掴まれたかのように空気が逆流して鍋を吹き出しそうになる。
「な、何言ってるんですか、サーニャさん」
「はっはっは、容姿も悪くなく、金銭的に困ることもない。そりゃあ、優良物件ってやつだろう? 何より美味いメシと酒がある。何なら二番目でも構わないよ」
流し目というのだろうか。目を細めて冨岡を誘うような表情を浮かべるサーニャ。
それを見ていたアメリアが黙っているはずもない。
「何言ってるの、サーニャ。子どもたちが見ているんですよ!」
「何だい、アメリア。じゃあ、子どもが見ていなければいいってことだね?」
「そうは言ってません。トミオカさんを困らせないで」
「困らせず、子どもたちが寝た後ならいいってことかい? ねぇ、トミオカさん」
そのままサーニャは、冨岡に色っぽい視線を送りつつ、酒を嗜む。
アメリアとはタイプの違う美人であるサーニャ。その言葉が本気かどうかに関わらず、心臓が暴れ始める。
自分の鼓動が聞こえそうなほどドキドキしながら、冨岡は苦笑で返した。
「はは・・・・・・」
「ほら、困ってるじゃないですか」
冨岡の返答を聞いたアメリアが言うと、サーニャは豪快な笑みを浮かべる。
「そりゃそうさ。こんな美人に迫られたら、戸惑うのも当然だろう。トミオカさんは純情そうだからねぇ。まぁ、全ては私の美人さと色気が原因だね」
「どうしてそんなに自信たっぷりなんですか。トミオカさんも何とか言ってくださいよ」
そうアメリアが話を振ると、冨岡は硬直したまま「へ?」と答えた。
どうにも煮え切らない姿に見えてしまったのだろう。アメリアは唇を尖らせた。
「何ですか。そんなにサーニャがいいんですか?」
「い、いや、そういうわけではないですよ」
冨岡がアメリアの機嫌を損ねないように答えると、いたずらでもするようにサーニャが口を挟む。
「おや、悲しいねぇ。私には魅力がないってことかい?」
「そんなことはないですよ。サーニャさんは魅力的ですよ、すごく」
言葉にしてからこの状況を理解する冨岡。何を言っても板挟みになる。何より状況を悪くしているのは、サーニャのアメリアを揶揄おうといういたずら心だ。
「ならいいじゃないか。こんなに魅力的な女性が迫っているんだから、男としては断れないよねぇ」
サーニャが言葉を付け足すと、アメリアは立ち上がる勢いで口を開く。
「トミオカさんは優しいから、サーニャを傷つけないようにしているだけです」
「優しいと優柔不断は似ているからね。これはまだまだ私にチャンスがありそうだ」
下唇をグラスに着けながら言うサーニャ。そんな二人を見かねたレボルが咳払いをして、話を断ち切る。
「せっかくの鍋が冷めてしまいますよ。さぁ、食べましょうか」
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