第312話 日本酒と肴
ある意味、サーニャが酒を欲するのはイメージ通りである。
少し活発そうな女性が酒を求める姿が、当てはまりすぎて冨岡としても美味しいものを提供したくなった。
日本酒に合う肴といえば、多少クセのあるものが多いだろう。それこそお酒好きでないと試してもらえないものがいくつか。
日本酒の銘柄は、祖父源次郎が生前美味しいと口にしていた銘酒。白米を極限まで磨き、旨みを追求した酒である。
肴として用意したのは、イカの塩辛と軽く炙ったエイヒレ、ホタルイカの姿干し、そして意外と合うことで知られているカマンベールチーズだ。
どれもさらに出すだけで用意が完了するので、ささっと用意して鍋の準備に戻る。
レボルが下拵えした材料を沸騰させた鍋つゆに入れていき、最後に蓋をした。
「これでもう少し待てば完成しますよ。サーニャさんのお口に合えばいいのですが、俺の故郷の酒です」
冨岡はそう言いながら、小さなグラスに日本酒を注ぐ。
日本酒の流れを眺めながら、サーニャは嬉しそうに上唇を舐めた。
「ほお、まるで水のような酒だねぇ。少しだけとろっとしているか・・・・・・ここまで甘い匂いが漂ってくるよ。果実のような香り、酒精はそれほど高くないようだね」
美味しい日本酒は、フルーティと表現されることがある。少し離れた場所から嗅いだだけで果実のような印象を受けたサーニャは、それなりに酒を飲んできているのだろうと推測できた。
ちなみにその隣でレボルが、物欲しそうな目をしていたのに気づいた冨岡は、彼にも日本酒を注ぐ。
さらにサーニャは冨岡が用意した肴に目を向けた。
「これがこの酒に合う肴かい? この辺は海の物だろうとはわかるが、中々見ないものばかりだね。あまりにも小さなクラーケン・・・・・・のようなものと、これは臓物・・・・・・いや、食べる前にそんな話をするのは良くないね。だが、これはわかるよ、上等なチーズのようだ。楽しみだねぇ」
品定めをするサーニャの隣で、リオはガスコンロの火を眺めている。
「・・・・・・」
そのまま鍋の蓋から漏れる蒸気を目で追いかけ、不思議そうな表情をしていたのだが、その動きの中でアメリアと目が合った。
アメリアは優しく微笑み、声をかける。
「料理って不思議ですよね。様々な食材が調理という過程を経て、一つの美味を作り上げる。私は料理人として生きてきたわけではないですし、トミオカさんと出会っていなければ気づけなかったのですが、料理は人の繋がりに似ていると思うんです。ただ一緒にいるだけではなく、何か過程を踏むからこそ、強く繋がり合い新しい何かを生む」
「・・・・・・何を言っているのかわからないよ」
「そうですね、私も本当にはわかっていないと思います。ただどこか似ているな、と。それが本当にそうなのか、これから確かめたいと思っていますよ」
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