第305話 心の交差

 言葉を尽くした心の交差。

 まるで数年ぶりの再会でもしたかのように二人は強く抱きしめ合った。いや、数年ぶりに再会したのだろう。

 毎日一緒にいたのだが、会っていなかった。親子として対面したのは本当に久しぶりなのである。

 そんな二人を見ていた冨岡は、自らの目尻に潤いを感じた。指で拭おうとした冨岡の視界にふと号泣しているミルコが映る。


「うおおおおおおおお、よがっだ! よがっだな、ブルーノ!」


 どちらかというと強面寄りの男性が号泣していると、何故か変に冷静になってします。溢れそうだった涙が消失し、行き場を失った冨岡の指。


「泣きすぎですよ、ミルコ。気持ちはわかりますけど、ここは広場ですからね。お客さんたちがびっくりしてますよ」


 ハンバーガーを購入するために集まってきていた客らは、ミルコに好奇の視線を向けていた。

 

「だってよぉ、トミオカさん。よかったじゃねぇかよ。家族ってのはいいもんだな」

「まぁ、それは俺もそう思う。どこかですれ違っても、心からぶつかれば分かり合える・・・・・・こともある」

「こともあるって、男らしく言い切ればいいんだろ。分かり合えるってな」

「俺は慎重なんだ。たとえば『家族ってのはこういうものだ』なんて思ってたら、他人にも同じことを求めてしまう。千の家族があれば、千の形がある・・・・・・そういうものだし、それでいいんだ。ブルーノさんとアレックスだから、この状況になれたってだけだよ」


 冨岡がそう言いながら口角を上げると、ミルコは涙を拭ってから笑う。


「言ってることはわかるがな。でも、俺はブルーノとあの子だからこうなれた、なんて思わないぜ。トミオカさん、アンタがそうしたいと願い、動いたからだ。いや? あの子がこれまで頑張ってきたから、アンタに巡り会えたのか? まぁ、結果良ければ全てよしってことだな」


 考えるのを放棄し、冨岡の背中を叩くミルコ。

 職人の腕力を受けた冨岡は体勢を崩しそうになりながらも、屋台に視線を送った。

 アメリアが仕事を続けながら、こちらにやわらかい笑みを向けている。心の底から嬉しそうな笑みだ。

 ひとしきり抱き合ったアレックスとブルーノは、親子らしく手を繋ぎ富岡に声をかける。


「ありがとう、トミオカさん! 本当にお父さんと暮らせるようになった!」

「ありがとう、トミオカさん。俺に未来を与えてくれた・・・・・・この恩は一生かけて返していくつもりだ。何か困ったことがあれば、いつでも言ってほしい」


 二人からの感謝を受け取った冨岡は優しく微笑んだ。


「アレックス、頑張ったのは君だよ。君の力だ。ブルーノさん、そっちこそ困ったことがあったら言ってくださいね。全てはアレックスのために」

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