第306話 二つの平面図
親子が再出発する光景を眺めた富岡は、心に暖かな光のようなものが溢れていくように感じる。まるで陽だまりが生まれたようだった。
そのままブルーノとアレックスは充分なほど礼を言って帰宅し、冨岡は移動販売『ピース』の手伝いに入る。もうすぐ閉店の時間なので、それまではミルコを屋台の中で待たせていた。
日が傾く直前に営業を終え、恒例となっている貧民街での配布に移る直前、冨岡はアメリアを屋台の中に呼び出す。
レボルが調理台を片付け、フィーネが勉強している横で冨岡とアメリア、ミルコは、教会についての話を始めた。
「アメリアさん、話というのは教会のことなんです」
冨岡が切り出すと、アメリアは深刻な話なのだろう、と身構える。
「はい・・・・・・なんでしょうか?」
「実は、教会の改修費の目処が立ったんです」
そこから冨岡は、キュルケース家での一件を説明した。冨岡への報酬として改修費を全てキュルケース家が出すということ。それはキュルケース公爵にとっても、望みの一つであること。また、このまま飲食店だけを続けていれば、学園が先延ばしになり救えるはずだった子を救えない可能性が生まれること。
「ですから、可能な限り早く教会の改修を始めたいと思ってるんです。工事についてはミルコの工房で担当してくれることになっていますので、あとはアメリアさんの気持ち次第というか」
少し歯切れ悪く冨岡が説明を終えると、アメリアは分かりやすく胸を撫で下ろした。
「なんだ、そんなことですか。もう、わざわざ話があります、なんて呼び出すから学園づくりを断念することになったのかと思ったじゃないですか」
そう話すアメリアは安心したように笑みを浮かべる。
おそらくそれが彼女の想像する最悪なのだろう。
その反応に安心した冨岡だが、本当に言いづらいのはここからだ。
「あの、それでですね。教会を学園に改修するためには、教会という形がなくなるかもしれないんです」
「教会という形、ですか?」
言葉からはイメージが掴めず、アメリアは首を傾げる。
どう説明しようか、と冨岡が悩んでいるとミルコが口を出した。
「なぁ、トミオカさん。書くものはあるか?」
「え? ええ、あるけど。これでいいですか?」
ミルコの要望に対して、冨岡は紙と鉛筆を手渡す。これはフィーネの勉強に使っていたものだ。
受け取ったミルコはその利便性や紙の品質に驚きかけたが、話を中断するわけにはいかない、と進める。
「なんだ、この紙。真っ白だなんてありえ・・・・・・いや、ちょっと待ってくれ。今の教会の間取りを簡単に描くと」
ミルコは慣れた手付きでささっと教会の平面図を描き始めた。
不動産会社などでよく見かける間取りがわかりやすい図である。
「俺が外から見た感じ、ここがこうなってて、この辺に部屋があるだろ? 外壁の感じから、ここは繋がってる。んで、ここが礼拝堂だ。食堂なんかはこの辺か」
現在の教会を描きあげたミルコは、新しい紙に同じ広さで冨岡が想定しているであろう学園の平面図を描いた。
「トミオカさんの話を聞く限り、学園ってのはこんな感じじゃないか?」
二つの平面図をそのままアメリアに見せる。
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