第304話 心と心の間にあるもの
冨岡はそんなアレックスの方を、優しく合図するように叩く。
「アレックス、大切なのは君の気持ちだ。君がどんな選択をしても、俺は全力で助ける。一度抱いてしまった恐怖を拭い去るのは難しいさ。ブルーノさん・・・・・・君の父親が本当に変わったのかなんて、俺にもわからない。それでも、俺はアレックスを信じるようにブルーノさんを信じたいと思ってる。君が何を言っても、もうブルーノさんは声を荒げたりしないよ。ですよね?」
言葉の最後に冨岡は、ブルーノへ視線を向けた。
突然の問いかけだったのだが、この会話に全神経を集中させているブルーノは即座に反応する。
「あ、ああ、もちろんだ。何を言おうと、アレックスを責めるなんてことはない。だからお前の答えを聞かせてくれ」
「僕・・・・・・僕、お父さんと一緒にいてもいいの? お父さんを助けてあげることができなかったのに、僕がいても邪魔じゃないの?
アレックスは涙を浮かべながら、そう尋ねた。
冨岡は一瞬、思考が停止する。何を言っているのだろう、と言葉にする直前で答えに至った。
幼いながらにアレックスは、自責の精神で生きている。父親であるブルーノが仕事を失い、酒に浸り、暴力的な振る舞いをしてしまうのは、自分がまだ未熟だから。そう考えていたのだ。
自分がもっと父親を支えることができれば、助けることができれば、こんな状況になっていなかったかもしれない。
そんなことを考える必要があるとは、微塵にも思っていなかった冨岡が、即座にたどり着ける答えではなかった。
答えへと冨岡を導いたのは、アレックスの表情である。
自分を責めるようなその悲痛の表情が答えを出させた。
「アレックス、そんなことは」
背中を押し、優しく肩を抱くのが自分の役割だとアレックスに声をかける冨岡。
しかし、それよりも少しだけ早くブルーノが実際にアレックスの方を抱く。
「アレックス!」
「お父さん・・・・・・」
「お前のせいじゃない。全て俺が悪いんだ。自分だけが辛いと思い込んで・・・・・・何もかもを失くしたと決めつけていた。これ以上、何も失わないとたかを括って、好き勝手に何も考えず生きていた。それでもお前は俺の側にいてくれた・・・・・・俺は失くしたものばかり数え、過去に囚われていたというのに、お前は信じてくれていたんだな。俺との未来を・・・・・・」
アレックスの自責。それはブルーノならば立ち直り、再び幸せな家庭を作り上げてくれると信じているからこそ生まれる感情だ。
ブルーノの言葉をかけられたアレックスは、言葉にならない嗚咽のような声を漏らす。
「うんっ・・・・・・僕・・・・・・僕!」
「もう一度頼む。アレックス、これからも俺と一緒に居てくれないか。死ぬ気で働いて、お前を幸せにする。お前が笑って暮らせるように・・・・・・俺・・・・・・お父さん頑張るから」
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