第303話 最後の最低

 すると彼女は接客をしながら、可愛らしく首を傾げる。

 頭の上に小さく柔らかな疑問符を浮かべ、目線だけで冨岡に意思を伝えた。

 声に出していない言葉を受け取った冨岡は、無言でブルーノを指差す。

 それによって『全部終わったから、ブルーノを連れて戻ってきた。アレックスに会わせたい』という冨岡の目的を理解したアメリア。


「ハンバーガーが二つですね。こちらが商品です。料金はちょうどでいただきました。ありがとうございます」


 客の応対を終え次の客に移ろうというタイミングで、調理台近くにいたアレックスに声をかける。


「アレックス、ちょっといいですか? 一度屋台の外に出てください」


 アメリアの言葉は、レボルの足元でレタスを持っていたアレックスに届く。

 小さな体でできることを精一杯手伝おうとしている彼は、何だろうという表情を浮かべてレタスを調理台に置いた。

 指示されたまま、屋台のドアから出てくるとそこにはブルーノを先頭にして冨岡たちが立っている。


「アレックス・・・・・・」

「お父さん・・・・・・」


 互いにどこかぎこちない雰囲気だ。

 二人は昨日、険悪な雰囲気で別れている。その後少し開けて再開すると、どこか気まずいのは当然だ。

 特に過去の行いを心から悔いているブルーノは、アレックスにどのような態度で接すればいいのかわからない。

 最も身近であるが故に、わからないこともある。

 そんなブルーノの背中を冨岡が叩いた。


「ブルーノさん、ここが分水嶺ですよ。アレックスとどうなるのかは、ここから決まるんです。ちゃんと自分の気持ちを自分の言葉で伝えてください」

「あ、ああ・・・・・・アレックス」


 ブルーノは頷いてから、アレックスの前で膝を着く。


「俺の話を聞いてくれるか?」

「・・・・・・うん」

「俺は最低の父親だった。最低なことを何度もしたし、最低なことを何度も言った。それはどれだけ謝ろうと、許されないことだと思う。そして、もう一度だけ最低なことを言わせてくれ・・・・・・それでも俺はお前と一緒にいたい。お父さん、もう一度死んだ気になって頑張るから・・・・・・俺と一緒にいてくれないか?」

「僕・・・・・・」


 答えにくそうに顔を伏せるアレックス。

 父親と一緒にいたいと言ったのはアレックスだ。そのために冨岡は、ブルーノが根本的に立ち直る方法を探したのである。その結果が今だ。

 それでも、いざ言葉にされるとどう答えていいのかわからないらしい。

 父親への愛情と同時に、蓄積された恐怖もまた本物だ。

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