第301話 未来に繋げる優しさ
教会に到着した冨岡は、ブルーノとミルコを入り口のところで待たせておき、自分のリュックを取りに行った。
中にカップ麺などのお湯だけで調理できる食材を大量に詰めて、ブルーノに手渡す。
「ブルーノさん、これ」
「これは?」
「お湯を入れれば食べられる・・・・・・保存食のようなものです。歩きながら説明するので、とりあえず持って帰ってください。しばらくはアレックスと二人、食べていけるはずです。もちろん、これだけでは足りないと思うので、いつでも追加を受け取りに来てください。あと、栄養的にも心配だから、定期的にアレックスを連れて屋台でもここにでも食べに来てくださいね」
「そんな、仕事の世話だけでも返しきれない恩だっていうのに」
申し訳なさそうにブルーノが言うと、冨岡は鼻の奥で笑った。
「アレックスを餓えさせるつもりですか? 何をしてでも、アレックスと幸せに暮らす。そこにプライドや外聞なんて関係ないでしょう。利用できるものは鬼でも仏でも利用してくださいよ」
自分を鬼や仏に例えていることがおかしく、冨岡は吹き出しそうになる。
それでもその気持ちは、しっかりとブルーノに伝わった。
「あ、ああ、何から何まで感謝する」
ブルーノがリュックを受け取ると、彼の背中をミルコが強めに叩く。
鈍い音がした直後、ミルコはまるで財宝を奪い取った後の山賊かのように笑った。
「はっはっは! それでいいんだ。もしもトミオカさんのとこに人がいなければ、仕事終わりにウチで食ってけよ。もう、家族みたいなもんなんだからよ」
「ありがとうございます・・・・・・本当に、俺・・・・・・」
昨日までどん底にいたブルーノ。そこに差し伸べられたのは、陽の光が固形になったと錯覚するほどの暖かい手。
冷たく息苦しい場所にいたブルーノは、その温度差によって目に水滴を浮かべる。
もしかすると、傷つき傷つけ凍っていた心が溶け出したのかもしれない。
「俺・・・・・・俺、こんなに」
そんなブルーノに冨岡が笑いかける。
「そんな顔してアレックスを迎えに行くつもりですか? これから背負って進んでいく父親の表情を見せてあげてくださいよ。さぁ、屋台に行きましょう」
冨岡が自分の肩を寄せて、ブルーノの体を揺らすと彼は涙を拭って頷いた。
「うっ・・・・・・はい!」
ブルーノがアレックスに対し、非道な行いをしていたことに間違いはない。
父親として決してあってはならないことだ。それでも彼は立ち直り、前に向かおうとしている。
そんなブルーノを支えたいと、冨岡は心の底から思っていた。
そしていつかブルーノは余裕が生まれた時、その優しさを誰かに向けるかもしれない。
これが未来に繋げる優しさだ。
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