第298話 夢の形

 それは冨岡が口にした『得はない』という言葉に対しての答えである。

 冨岡に対して報酬を渡す行動は、実質支援のようなものだ。その支援に対する見返りは求めない。冨岡が学園を作り、貧しく苦しみ未来さえ描けない子どもたちを救うことそのものが、公爵家の望みだとダルクは言っている。

 もはや断る理由などなかった。


「もったいつけるような真似をしてすみませんでした。ダルクさんや公爵家の方々がそれほどまでに考えてくれていたなんて・・・・・・今更になりますけど、ありがたく受け取っていいですか?」

「ええ、もちろんですよ」


 ダルクが頷きながら微笑むと、隣にいたミルコが腕を振り上げて喜ぶ。


「よっし、そう来なくちゃな! 改修は俺に任せろってんだ。早速図面を引かせてもらうぜ」


 続いてローズが得意げに腕を組んだ。


「私も! 私もお父様にお願いしたのよ。トミーの願いをできるだけ叶えて欲しいって」


 幼いドヤ顔を目の当たりにした冨岡は、どうしてだか胸が温まり思わず笑みを浮かべる。


「ありがとうございます、ローズ」

「私のお願いなら、お父様は聞いてくださるしね。何か困ったことがあったら私に言うといいわ。この私にね?」

「ははっ、そうさせてもらいますよ」


 ブルーノの雇用、教会の改修について話がまとまったところで、冨岡とミルコはキュルケース家を後にした。

 冨岡を引き止めようとするローズの「どうしてなのよ」攻撃に耐え、まだキュルケース公爵邸を眺めていたいミルコを説得し、なんとか工房に向かう。

 その道中は、ミルコが冨岡に対してどのような学園にするのかと問いかけ続けた。


「学園っつーのを知らねぇからよ、ざっくりとした概要を教えてもらえねぇか?」

「大きな孤児院って感じです。子どもたちが暮らせるようにしてもらえれば。あ、あとは教室が欲しいです」

「教室?」

「子どもたちが集まって学べる部屋です。机を並べて黒板を置いて・・・・・・いや、黒板は向こうから持ち込んだほうが使いやすいか。ホワイトボードでもいいな」


 教室を思い浮かべるのに夢中で、思わずそんな言葉を口走る冨岡。

 ミルコが「向こうから?」と聞き返すと、慌てて訂正する。


「えっと、俺の故郷からってことですよ。こう、前に教師・・・・・・勉強を教える大人が立って、子どもたちに向かって話す形です。学ぶ教室と食堂、子どもたちの部屋があればいいかなぁと思ってるんですが」

「なーるほどな。そうだ、もう一つ聞きたいんだが、今は教会って形だろ? その教会がどうなってるのか、ある程度は知っているつもりだが・・・・・・いいのか? トミオカさんのイメージを形にするとなれば、教会に必要な礼拝堂なんかは無くなると思うぜ」

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