第297話 貴族社会に風穴を
金は出すが、口は出さない。有り体に言えばそういう話だ。
これ以上にない好条件。冨岡への報酬という形であれば、貴族たちの何かしらに巻き込まれることもないだろう。
あまりにも理想的な話だったので、冨岡は申し訳なさそうに聞き返した。
「本当にいいんですか? キュルケース家にとって、何の得もないですし」
するとダルクは不思議そうに首を傾げる。
「これは正当な報酬です。既に得たものがあったから、発生しているんですよ。これ以上、何も求めません。それに長い目で見れば、トミオカ様の行動はこの国の大きな利益になるでしょう。本来であれば、国が主導し進めなければならない話です。しかし、国を動かしている王族や貴族たちにはそれぞれ立場やしがらみが存在していまして、簡単に進められる話ではないのですよ」
「立場やしがらみ?」
「複雑な話をしますが・・・・・・貴族は何故、貴族なのでしょうか? 建国者である王族の親近者、または国に対し大きな利益をもたらし、爵位を得た。わかりやすいですが、これは上澄の話。貴族が貴族である理由は至極簡単です。その下に平民がいるから・・・・・・国民全員が貴族になってしまえば、貴族とは存在しなくなる。特別扱いを受ける存在ではなくなるのです」
国民の中で抜きん出た立場にいるから貴族。領地や領民を治めるから貴族。
言葉にしてみれば当たり前なのだが、改めて考えてみるとなるほどと頷ける。
「そう・・・・・・ですね。それがしがらみですか?」
「ええ、貴族の中にはこう考える方もおられるのです。富める者はより富み、貧する者はより貧するべきだ、と。格差が存在してこそ、貴族は貴族であり続けることができる。すると、貧しく苦しんでいる者が学び、成長することを恐れるようになります。いつか、自分の立場を脅かすかもしれませんからね」
「でも! それじゃあ、平民の立場にある人は苦しみ続けるしかないじゃないですか」
「けれど、それを望んでいる貴族がいます。そして、その言葉を無視して強行するわけにはいかない、そんなしがらみですよ。ホース公爵様のお力を持ってしても、簡単にはいきません。もちろん、公爵様はそんな状況を憂慮なさってます。しかしながら、動き方を間違えれば国家反逆と見られる可能性もある。貴族社会そのものを破壊しかねない行動ですからね」
ダルクは悲しげに言いながら、冨岡を指差した。
「そこに現れたのがトミオカ様です」
「俺?」
「ええ、トミオカ様には何のしがらみもございません。どう動こうと、貴族社会に危険を及ぼすなどと勘ぐられはしない立場です。もちろん、他の貴族以外の方が貧しい子どもたちを支援する場を設けてもいいはずなのですが、利益など得られない事業を始める者などおりません。ですから、トミオカ様の存在は極めて異質。そして、ホース公爵様の望みを叶えてくださる方です。どうです、これがキュルケース家が得るものだ、と言えば納得できますか?」
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