第295話 酒の悪魔は

 まず初めは、貧民街にてハンバーガーの配布をしていたことからだ。

 その行動自体には対して、ローズやダルクが驚くことはない。冨岡の目標や性格を考えれば、むしろ自然なことである。

 その上で、アレックスとの出会い。そして噂話からアレックスの身を案じ、家までついて行ったこと。

 そこでブルーノの真実を知り、アレックスの願いを叶えるために新しい仕事を紹介することに。

 過去に林業の工房を営んでいたブルーノに紹介する仕事として、ミルコの工房を選んだ。

 既にキュルケース公爵家の力を借りている以上、話をしなければならない。


「ということで、この話自体がお邪魔させてもらった理由なんです」


 冨岡が説明を終える。

 ローズは全てを理解できなかったのか椅子に深く座り、退屈そうな顔をしていた。

 その隣に控えているダルクは、凛と背筋を伸ばして「なるほど」と自分の中で話を整理している。

 

「そういうことだったのか」


 そう話したのは、冨岡が連れてきたミルコだった。

 ミルコが何の事情も知らずに二つ返事でブルーノを受け入れてくれたため、説明をしていなかったのだから、初耳だという反応をするのは当然である。

 しかし、ダルクからすれば「話していなかったんですか」と驚きの対象になるのも当然だ。


「そうですね。ミルコにも話していなかったです」

「俺はいいんだよ。トミオカさんが雇うと決めたのなら、それでいい。それよりダルクの旦那。ウチの工房に新人を入れる話だが、どうだい?」


 ミルコが問いかけると、ダルクは「ふむ」と少し考えてから言葉を続ける。


「もちろん、当家としてもトミオカ様が判断したのであれば、雇っていただくのは問題ございません。ですが・・・・・・いえ、これは友人としての言葉とさせてください。酒の悪魔というものは中々抜けない。それは決して心が弱いからではなく、染みついた悪魔が体を勝手に酒へと導く。そう聞いています。そしてたった一滴の酒が、完全に悪魔を蘇らせる。いいですか、トミオカ様・・・・・・仕事を紹介したからといって、その親子が救えるわけではありません。この先も安寧な暮らしを続けられるか、見守ること。それが一度関わったトミオカ様の責任です。おわかりですね?」

「ええ、もちろんです。俺はこの街に学園を作る。子どもたちが貧富の差や環境によって、未来を奪われないように。今この時、飢えることのないように。その学園でアレックスを見守り続けます」


 冨岡が自分の覚悟を口にすると、ダルクは満足そうに微笑んだ。


「ほっほっほ、そこまで考えてのことであれば友人としても応援するしかありませんね。もちろん、公爵家執事としても。しかし、そういうことであれば学園作りを急がなければならないようですね」

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