第294話 心強い聞き手

 ダルクの言う通り明らかに自分から求めていたのに、実際に言われると赤面し顔を背けるローズ。

 女心はやはり難しい、と冨岡は苦笑しながらダルクに顔を向けた。


「お久しぶりです。あっさり通してもらえましたけど、大丈夫でしたか?」

「ええ、トミオカ様がいらっしゃった時に、面倒な手続きなどありましたら足が遠のくのではないか、と旦那様が危惧されまして。従者全員にトミオカ様の容姿を周知、どのタイミングであろうとお通しするように命じられました。こうしてローズお嬢様もトミオカ様にお会いしたかったようですし」


 そうダルクが言うと、ローズは恥ずかしそうに唇を尖らせる。


「それなのにトミーったら、全然来てくれないんだもの。顔を忘れちゃうところだったわ。元々、覚えづらい特徴のない顔をしているのに」


 美形だらけのこのファンタジー異世界では、むしろ冨岡特徴的な顔なはずだ。

 逆説的に考えれば、ローズにとって冨岡は他の美形と遜色ないように見えている、ということ。

 よく考えてみれば褒め言葉なのだが、冨岡は気付かずに自分の頬を撫でる。


「特徴のない顔ですか。なんかこう、もっと男らしくなった方がいいんでしょうか? そうすればもっと頼り甲斐のある感じになるかな。例えば髭を生やしてみるとか」


 そんな言葉を漏らす冨岡。ローズとしては冨岡が自分を変えようとする可能性を考えておらず、慌てて言葉を返す。


「髭なんてトミーには似合わないわ。そのままでいいのよ。もう!」


 右往左往するローズの意見に苦笑しながら、冨岡は話を進めた。


「ははっ、じゃあローズの言うように髭はやめておきますね。あ、そうだ。今日お邪魔させてもらったのは、ミルコの工房のことなんですけど」

「でしょうね。同行しておられますので、そうだとは思っていましたが、詳しい話はこちらでお聞きしますよ」


 先ほどまでローズが蹴りを繰り出さぬよう控えていたダルクが、すぐ側の扉を指し示す。

 その部屋は数多くある客間の一つで、冨岡を歩かせないようにというダルクの配慮だった。

 客間に入り、冨岡とミルコ、ローズがそれぞれ椅子に座るとダルクが自分の胸に手を当てながら問いかける。


「お話が長くなるようでしたら、お茶をご準備させていただきますが、いかがでしょう?」

「ありがとうございます。それほど長居はできないので、大丈夫ですよ。えっと、ホース公爵様って忙しいですか?」


 本題に入るため、冨岡がホースの現状を問いかけるとダルクは首を縦に振った。


「ええ、本日は公務のために領地の視察に・・・・・・旦那様にご用が?」

「用というか、耳に入れておきたいことがあったんです。いや、許可取り?」

「このダルクめがお聞きし、旦那様にお伝えしておくのではこと足りないでしょうか?」

「いえ、ダルクさんが聞いてくれるなら」


 冨岡にとってダルクは自分のことを信頼し、可能な限りの助力をくれる人物。そして信頼できる友人だ。

 聞いてくれるなら安心である。

 そんな時、ローズは今にも椅子から落ちそうなほど身を乗り出した。


「私も聞いてあげるわ! お父様にお話しすればいいのよね? 任せて!」


 これは心強い、と冨岡は微笑み、ブルーノについて説明を始める。

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