第276話 この場所の温かさ

 ブルーノの家から二人で歩き、屋台が見え始めたタイミングで冨岡が突然足を止める。


「トミオカさん? どうしたんですか?」


 レボルが問いかけると、冨岡はその場でしゃがみ頭を抱えた。


「うわぁ、俺やりすぎてましたよね? すみません、急に思い出し反省しちゃって。ほら、結局ブルーノさんの噂を鵜呑みにしてしまってたじゃないですか。実際、大切な部分は間違ってましたし」


 冨岡は情熱的に怒りを露わにした自身を恥じる。

 するとレボルは優しく微笑んだ。


「確かにやりすぎなところはありましたね。けど、どれもアレックスを想うが故でした。私は嫌いじゃないですよ、そんなトミオカさんが。実際、なんて言うのなら最終的には一番いい方向に落ち着いたじゃないですか。他の誰にも出せない、素晴らしい結果でしたよ。実際ね」

「レボルさん・・・・・・ありがとうございます。レボルさんが間に入ってくれたから、冷静に考えることができました」

「ははっ、そう言われると照れくさいな。まぁ、ともかく反省はこの場所に置いて行ってください。そんな顔していると、屋台で待っている三人を不安にさせますよ?」


 そんな忠告を受け、冨岡は自分の両頬を叩いた。安い打楽器のような音をたて、痛みとともに我を取り戻す。


「うっし、そうですね。じゃあ、戻りましょうか」


 そのまま冨岡は屋台の扉を開けて中に入った。


「ただいま戻りました!」


 冨岡の言葉から間髪入れず、フィーネが笑顔で飛びかかってくる。


「トミオカさん!」

「うわっと、フィーネちゃん。よくわかったね、俺が帰ってくるって」

「ふふふ、足音が聞こえてたんだ」


 抱きかかえたフィーネの重みは感じるものの、冨岡は両肩に乗っかっていた重い何かが吹き飛んだように感じた。笑顔の力は素晴らしい。

 そのまま冨岡が視線を上げると、椅子にアメリアとアレックスが座っており、こちらに笑顔を向けていた。


「お帰りなさい、トミオカさん」

「・・・・・・えっと、その」


 アメリアの言葉に合わせてアレックスも挨拶しようとするが、何を言っていいのか分からず言葉を濁らせる。

 そんなアレックスにアメリアが優しく微笑みかけた。


「お帰りなさい、でいいんですよ」

「お、お帰りなさい」


 アレックスの言葉を聞いた冨岡は、フィーネを地面に下ろしてから笑顔を向ける。


「ただいま。アレックス、アメリアさん」


 家族のような温かい空気に触れ、冨岡はこの場所を守らなければと強く再認識した。

 先に夕食を食べておくよう言っていたのだが、どうやらアメリアたちは待っていたらしい。料理どころか調理の跡も見られなかった。

 せっかくなら教会に戻ってから食べよう、という話になりレボルも誘う。

 屋台を移動させる前に、アレックスには「今日は教会に泊まるってことになったんだ。明日お父さんが迎えに来てくれるよ」と説明。

 それもお父さんが了承している話だと聞いたアレックスは、素直に納得した。

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