第270話 清濁合わせ結局濁り
あくまでも冨岡の根拠なき推察である。
アレックスに対して愛情がありつつも、暴力的な気性を見せてしまう理由を考えれば、そこしかない。アレックスの面影がブルーノに過去を突きつけ、自分の中に留めて置けない怒りを発生させるのだ。
過去に愛した女性が、自分の幸せと仕事と誇りを奪い、未来まで阻害する。心中穏やかでいられないのも無理はない。
いや、これもこじつけと言えばこじつけである。
何も確証のない想像を言葉にしてしまった冨岡は、咄嗟に謝罪しようとブルーノに顔を向けた。
すると、視線の先ではブルーノが反論できずに顔を伏せる。
「・・・・・・」
「まさか、本当に? そんなことで・・・・・・そんなことでアレックスに辛く当たるんですか? 出ていった奥さんに似ているから・・・・・・過去を思い出してしまうから、酒に逃げ暴力的な行動に出てしまう、と」
「そんなことだと? 俺がどれほど苦しんだと思う! 過去も未来も踏み躙られ、自分の子ども一人満足に食わせていけない。その原因は、一度愛した女だぞ!」
まるで泣き声のような言葉だ、と冨岡は感じた。
心に押し込めていた悲痛な叫びを吐き出すように、ブルーノは冨岡を睨む。
冨岡はそんな彼の言葉が全て間違っているとは思わなかった。途方もない苦しみだっただろう。何もかも奪われて生きることがどれほど辛いのか、冨岡には想像もつかない。
けれどブルーノの行動は間違っている。それだけは間違いなかった。
「そうだとしても、アレックスがどれほど苦しんだと・・・・・・いや、すみません。ブルーノさんの苦しみも知らずにそんなこと言えないですよね。ただ、これ以上アレックスを苦しめるのはやめてください」
冨岡がそう懇願すると、ブルーノの表情は険しさを増す。
「どうしろってんだ・・・・・・どうしろってんだ! 俺は・・・・・・俺はどうしたらいいんだ。教えてくれよ。職も未来も失った・・・・・・何をしてても恐怖と焦燥感に襲われ、酒でも飲まなきゃ正気でいられねぇ。酒を飲めば怒りに襲われ、アレックスに当たっちまう。どうしようもねぇんだよ。だから言ったんだ・・・・・・買ってくれよ、アレックスを。金貨一枚で買って、テメェが幸せにしてやってくれよ。俺には・・・・・・俺には・・・・・・」
ブルーノ自身、もう自分をコントロール出来ていなかった。正しいと思っていないどころか、自分自身を間違いだと認識している。
それでも酒に逃げるしかなく、アレックスに当たってしまうのだ。
冨岡はその現実に思わず涙する。
一筋の涙を流しながら、ブルーノにこう叫んだ。
「それでもアレックスはアンタと暮らしたいって言ったんだ! 他のところで幸せになるよりも、アンタと不幸になることを選んだ。だったら、アンタが幸せにしてやれよ! 過去なんかに縛られるな! アンタ自身も・・・・・・ブルーノさんにも幸せになって欲しいんだ、俺は」
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