第265話 話せないこと
冨岡が問いかけると、アレックスの父親は顔を背けて黙った。
「・・・・・・」
「どうして黙るんですか。ちゃんと説明してもらえなければ、納得できません。俺はアンタが」
沈黙を貫く父親に対して、冨岡が不満を述べる。
その言葉を遮るようにレボルが冨岡の肩を掴んだ。
「トミオカさん、どうやら何か事情があるようです。これまで語気の強かった方が黙っているんですよ。おそらくは・・・・・・」
言いながらレボルはアレックスに視線を送る。
その仕草から冨岡は『アレックスに聞かせられない何か』があるのだと察した。
「・・・・・・なるほど。レボルさん、アレックスを連れて屋台に戻っていてもらえませんか? 俺は最後まで話が聞きたい」
「大丈夫ですか? 私が離れても」
「多分、大丈夫でしょう。立ち上がるのもままならないようですから」
冨岡が答えると、レボルはアレックスの父親を確認してから頷く。
「・・・・・・そうですね。わかりました、できるだけ早く戻ってきますから、トミオカさんも熱くならないように気をつけてください。気持ちはわかりますけど、感情に飲まれて吐いた言葉は大抵ロクなことにならない。そうでしょう?」
「はい、気をつけます。あ、そうだ。アメリアさんに夕食作りをお願いしてください。アレックスと一緒に食べてて欲しい、と」
「了解です」
レボルは多少心配そうにしながらもアレックスを連れて家から出ていった。
二人きりになったところで、冨岡はアレックスの父親に歩み寄り、その場に腰を下ろす。対等に話をする第一歩は目線を合わせるところから。
「改めて名乗りますね。俺は冨岡。小さな屋台で飲食店を運営している・・・・・・商人みたいなものです。名前を聞いてもいいですか? いつまでもアンタなんて呼ぶわけにはいかないでしょう」
「・・・・・・」
「俺みたいな若造にアンタって呼ばれ続けていいんですか?」
「・・・・・・チッ・・・・・・ブルーノ」
アレックスの父親、いやブルーノは不満そうに名乗る。
初めて会話がしっかりと成立したことに安堵を覚えながら、冨岡は話を進めた。
「ブルーノさんですね。失礼な口をきいてすみませんでした。でも、これで話してもらえますよね? どうして、働けないのか・・・・・・真っ当な生活ができないのかを」
「初対面のくせにズカズカと踏み込んでんじゃねぇよ。関係ねぇだろ」
「関係はなくとも、アレックスが苦しんでいるのを知った以上見過ごせませんよ。ブルーノさんがそのつもりなら、俺は金貨一枚を置いてアレックスを連れて帰りますよ? それでもいいんですか?」
「・・・・・・」
いざ冨岡が金貨を支払う、という姿勢を見せた途端ブルーノは黙ってしまう。そこで冨岡は確信した。
「よくないですよね? アレックスを簡単に手放していい、なんて思ってれば、アレックスを気遣って話せないなんてことあるはずないですから」
「知ったような口を・・・・・・」
「わかんない人だな。知らないから教えて欲しいって言ってんじゃないか」
呆れた口調で冨岡が言う。
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