第264話 生きるためには
軽く笑いながら言う父親に対し、アレックスは悲しげな表情を浮かべる。
その反応から察するに、物扱い自体は日常的に行われているようだ。
幼い男の子が何も言えずに耐えている様子を目の当たりにした冨岡は、胸が引き裂かれそうなほど苦しくなる。
「アレックスはアンタと暮らしたいって言ったんだ・・・・・・そんなアンタと暮らしていたいと言ったんだぞ」
「はっ、他に行く場所がねぇからだろうが。この家で生きていきたいなら、俺に従うしかない」
「他の選択肢があっても、アレックスはアンタの側を選ぶさ。かつての優しかったアンタを知ってるから・・・・・・今でもまだアンタを愛してるからだ。そんなアレックスを金貨一枚だなんて・・・・・・」
冨岡がそう言うとアレックスの父親は、奥歯を噛み締めてから言い返した。
「くっ・・・・・・お前に何がわかる! 金がなければ何もできねぇんだよ、この世界ではな! 愛じゃあ生きてけねぇ、金がなければ生きてけねぇんだ!」
その言い分に対して冨岡は怒りを覚える。
確かに金がなければ、実際に生きていくのは難しい。愛が全てを解決するなんて思ってはいなかった。
けれど、その金を失くしたのはギャンブルのせいだと聞いている。
ギャンブルさえしなければ金や職を失うことなく、今のように酒に浸り暴力を振るう事もなかったはずだ。
全て身から出た錆である。だというのに、金がなければなんてよく言えたものだ。
憤りを感じた冨岡は、淡々と私見を述べる。
「金がないのは・・・・・・アンタがギャンブルで遣うからなんだろ? 真面目に働いて、家族を大切にしていれば何も失うことはなかっただろう」
「何も知らねぇクセに、わかったようなことを言うな!」
アレックスの父親は、何かの感情を噛み締めたように叫んだ。
話せば話すほど、冨岡は彼とすれ違っているように感じる。それはおそらく認識の違い。
自分には何かの情報が欠けている、と判断した冨岡は一度呼吸を整えた。
「ふぅ・・・・・・俺が何も知らないのに、偉そうなことを言っているのが不快なんでしょう? 俺はただ、アレックスが幸せに暮らせる環境を作ってほしいだけだ。ギャンブルと酒をやめて、真っ当に働いてくれないか? それさえ約束してくれるなら、俺は今までの非礼を詫びて帰りますよ」
「チッ・・・・・・働けるもんなら働いてるよ」
そう答えたアレックスの父親に違和感を抱く冨岡。
聞いた話では、時々どこかの工房の作業員として働き金銭を得ているという。
働く気があれば働ける状況ではないのか、という違和感。
「それは一体どういう・・・・・・」
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