第263話 冨岡、沸騰
謝罪する冨岡だが、アレックスの父親は既に反撃の意思を露わにしている。
「ふざけんな! 勝手にブチギレて、勝手に謝罪だぁ? 吐いた唾は飲めねぇんだよ!」
そう叫びながら、アレックスの父親はベッドから立ち上がった。
しかしその一歩目で体制を崩し、足払いでもされたかのように勢いよく地面に体を打ちつける。
「ぐっ」
痛みを声にして漏らすアレックスの父親。
何が起きたのかわからなかった冨岡は咄嗟に声をかける。
「だ、大丈夫ですか?」
「見てんじゃねぇ! クソが! 見下してんじゃねぇぞ」
父親は起きあがろうと地面に手を着きながら、冨岡を睨みつけた。
「見下してなんか・・・・・・」
「ふざけんじゃねぇ・・・・・・ふざけんじゃねぇぞ!」
言いながら足に力を込め、立ちあがろうとする父親だったが再び倒れ込む。
倒しても倒しても起き上がる『起き上がり小法師』の真逆。起きあがろうとしても、どこが地面かを忘れたかのように倒れてしまうのだった。
その様子を見ていたレボルは、父親の右手に注視する。
「・・・・・・手は震えてない。いや、先ほど酒を口にしていたから震えていないだけか」
そう呟いてからレボルはアレックスに問いかけた。
「アレックス、一つ聞きたいのですがお父さんは普段、どれくらい酒を召し上がるんですか?」
「どれくらい・・・・・・お仕事がない時はずっと・・・・・・」
「やはり、そうですか。ギャンブルに、酒に・・・・・・」
レボルは自分の頭を抱え、冨岡に近づく。
「トミオカさん。彼は酒に呪われてしまっているようです」
「酒に?」
「ええ、酒がないと不安になり次第に手が震え始める呪いです。呪いの強さによっては彼のように、歩くこともままならなくなる。また、酒を飲めば人格が変わったように凶暴性を増すのも呪いの症状に当てはまります」
酒の呪いについて説明を受けた冨岡は『アルコール依存症』のことだろう、と受け止めた。
冨岡自身それほど詳しいわけではなかったが、一般常識程度にはアルコール依存症について知っている。
確かにアレックスの父親はアルコール依存症に当てはまっているのかもしれない。
「じゃあ、アレックスに暴力を振ったのは酒に飲まれて・・・・・・けど、じゃあ尚更だ。尚更、このままにはしておけない」
冨岡がそう呟くと、未だ立ち上がれていないアレックスの父親が叫ぶ。
「何勝手に話してやがる。俺が酒を飲もうが俺の勝手だろうが!」
そんな言葉に冨岡は答えた。
「酒を飲むのはあなたの自由です。けど、そのせいでアレックスが傷ついているのは事実ですよ。こんなに痩せて・・・・・・このままじゃあ、いつか・・・・・・」
「知らねぇよ、俺のガキだ。文句言われる筋合いはない。そんなにそのガキが心配なら、テメェに売ってやるよ。金貨一枚で買うか?」
先ほどレボルの注意を受けてからは、冷静に話せるよう心がけていた冨岡。
しかし、今の言葉を聞き逃すわけにはいかなかった。
「売る? 買う? アンタ、自分の子どもを何だと思ってるんだ! 物じゃないんだぞ!」
「ああ、物なら置いとくだけで金かかるなんてことねぇもんな」
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