第260話 アメリアとの約束
父親と暮らしたいと願っているアレックスだが、このままというわけにはいかない。
冨岡たちに何の権利があるわけでもないが、父親の行動を是正しなければ、アレックスに幸せなど訪れないだろう。
せめて理不尽な暴力と、命に影響するほど食べられていない状況を改善させなければ。
そんな想いを込めて問いかけた冨岡。
しかし、それでも尚アレックスは体を震わせる。
「お兄ちゃんたちが僕の家に・・・・・・そうするとお父さんがまた・・・・・・」
長く刷り込まれた恐怖は、簡単には拭えない。
冨岡は膝を着き、目線を合わせてそんなアレックスに語りかける。
「このままでいいはずない。君だってそう思ってるはずだろ? だが、俺たちが口を出せば・・・・・・もしかすると、今の生活は無くなってしまうかもしれない」
「僕は・・・・・・昔みたいにお父さんと」
「ああ、そうだ。だから『今の生活』じゃダメなんだよ。お父さんに昔の生活を思い出してもらわないと・・・・・・君の大切さを思い出してもらわないと、何も変わらないんだ」
現状維持じゃあ何も変わらない。
そんな冨岡の言葉がようやく届き、アレックスはゆっくり首を縦に振る。
「お父さんが昔のように・・・・・・優しくなってくれるなら」
「そうなるように話しに行くんだよ」
ようやく話がまとまったところで、冨岡は屋台にフィーネを乗せた。
「どうしましょう、アメリアさん。もしかすると、フィーネちゃんにとって見たくない状況になるかもしれません。ただ、ここに一人で残していくのも・・・・・・俺としてはアメリアさんも残っていて欲しいんですが」
「でも、私も・・・・・・」
冨岡に残って欲しいと言われたアメリアだが、彼女もまたアレックスの現状に心を痛めている。彼の行く末を決める話ならば、自分も同行したいと思っていた。
しかし、フィーネに『父親』の話を聞かせるわけにはいかない、という話は理解できる。
アメリアは口にしかけた言葉を飲み込んだ。その代わりに新しい言葉を吐き出す。
「トミオカさん、約束してください。トミオカさんの目で確かめて、アレックスが幸せになれない環境だと判断したら、無理にでも連れて帰って来て欲しいんです」
「無理にでも・・・・・・アメリアさん。アレックスの幸せは」
「アレックスの幸せは、アレックスが決める。優しいトミオカさんはそう言うでしょう。けれど、自分の幸せを決めるなんてことは難しく大人になっても簡単ではありません。幼いアレックスに全てを委ねることは酷ですよ」
そこで冨岡はハッとした。
人は不完全である。大人になっても完全な精神を得ることは難しい。だからこそ、法がある。
元の世界であれば、自分で決められない幼い子は法で守られていた。
けれど、不完全な人の作る法が完全なわけがない。不完全な人と不完全な法が支え合うことで、ようやく不完全の中でも『少しだけ完全に近い答え』が出せるのだ。
「そう・・・・・・ですね」
「すみません。トミオカさんを責めているわけではないんです。ただ、思うんですよ。幸せは結果なんだ、って。いざ振り返った時に『幸せだったな』そう思える日々が『幸せ』なんです。そしてそれを教えてくれたのはトミオカさんですよ」
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