第259話 アレックスの答え

 レボルの心は決まっているようだった。

 愛していた我が子を亡くしている彼は、アレックスを見過ごせないのだろう。どれだけ望んでも、もう我が子と生きることは叶わない。我が子が生きているというのに、大切にしようとしないアレックスの父親が許せなかった。

 親になったことのない冨岡でも、レボルの気持ちはわかる。静かに燃える怒りだ。


「俺・・・・・・アレックスの家について行きたいです。もちろん彼の気持ちが優先ですけど、できる限りのことはしたい」

「ええ、了解ですよ、オーナー。アレックスの父に『今、どれだけ幸せなのか』を教えてやりましょう」


 冨岡との話を終えたレボルは、手際よく屋台が移動できるように準備を整える。

 アレックスを抱きしめていたアメリアは、冨岡たちの話を聞いていたらしく「アレックス」と呼びかけた。


「ううっ、なに?」


 アレックスが聞き返すと、アメリアは瞳の優しさを強めて穏やかに話す。


「今から、幼いあなたには過酷かもしれない質問をします。心のままに答えてください」

「・・・・・・うん」

「あなたはどうしたいですか?」

「どう・・・・・・って?」

「私に提示できる選択肢と、あなたが持っている選択肢。どちらがいいか選んでください。私が提示できるのは、私やフィーネ、トミオカさんと教会で暮らすことです。あなたが持っている選択肢は、このまま父親と暮らすこと。どちらがあなたにとって良い選択肢なのか、私にもわかりません。けれど、私は・・・・・・いえ、私たちはあなたを救いたいと思っています。あなた自身で決めてください。私たちはあなたの選択を尊重します」


 アメリアの言葉を聞いたアレックスは、体を硬直させた。


「え・・・・・・僕がお姉さんたちと?」

「ええ、先ほどフィーネが言っていたでしょう。フィーネには親がいません。だから私と一緒に暮らしているんです、教会で」

「教会?」


 未だ状況が理解できないアレックス。そんな言葉を聞いていた冨岡は、途中から口を挟んだ。


「ああ、教会だよ。俺たちはアメリアさんの教会を『学園』にしたいと思ってる。親を失ったり、親がいても食べていけなかったり、学べなかったり・・・・・・そんな子たちを救いたいんだ。けど、これは俺のしたいことだ。アレックス、君はどうしたい?」

「僕は・・・・・・僕は・・・・・・僕はまた昔みたいにお父さんと暮らしたいよ」


 これがアレックスの本心なのだろう。

 何をされても、どんな状況であっても父親と居たい。

 その答えが正解かどうか、冨岡たちにもわからなかった。心の中ではアレックスが今の生活を捨て、自分たちの手で幸せにしたいと望んでいたかもしれない。

 けれど、アレックスが勇気を振り絞って答えを出したのなら、それを尊重する。冨岡は優しく頷いた。


「そうか。君がそう思うなら、俺たちは協力するよ。そのためにも、君の家について行っても良いかな?」

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