第254話 流された二人

 男の子は屋台の陰に隠れるようにして、膝を抱えて座っている。

 ハンバーガーだけでは満腹にならないにしても、男の子はスープも食していた。いくら体が栄養を欲していたとしても胃袋は満たされているはず。

 空腹で動けないということはないだろう。

 アメリアもそんな男の子が心配で声をかけようか悩んでいた。


「あの男の子・・・・・・家に帰るような感じに見えませんね」


 冨岡がそう話すと、アメリアは言いづらそうに自分の胸を押さえる。


「その・・・・・・先ほどハンバーガーを配っている時に、ここの住民の方に聞いたんです」

「何をですか?」


 聞き返すと彼女は少し間を空けてから答えた。


「幼い彼の話です。貧民街の雰囲気を目の当たりにしたトミオカさんにも分かると思うのですが、ここに住んでいる方はそれぞれ何かしらを抱えてらっしゃいます。体が弱く働くことのできない方、先の大戦により家族を失い生活がままならない方、様々な理由で職を失いそのまま働けないでいる方、老いや病・・・・・・悲しいことですが、現実としてこの場所が必要なんです」


 アメリアの話を聞き、貧民街の状況を再認識する冨岡。

 確かに悲しい現実だが、それがどう男の子と繋がるのだろう。そう考えながら冨岡は頷く。


「そうですね。この場所がなければ生きていけない人もいるでしょう」

「ええ、しかしあの男の子はそうじゃないんです」

「そうじゃない? この場所がなくても生きていけると?」


 そんなわけがないだろう、と冨岡は再び男の子に視線を送った。

 ボロボロの服、付着した汚れ、不健康極まりない体、生気の抜け落ちた瞳。何よりまだ一人で生きていける年齢ではないこと。

 どう考えてもこの場所がなければ生きていけないだろう。

 冨岡が疑問を表情に浮かべるとアメリアは、さらに言葉を付け足した。


「実はあの男の子の親は、健康的にも年齢的にも技術的にも働くことは可能だそうです。もちろん、聞いた話でしかないので全てが正しいとも限らないのですが・・・・・・」


 アメリアが住民から聞いた話。それは男の子の父親が元々林業を営んでいた、というものである。

 街の外で木を伐採し、木材として様々な所に売る仕事だ。資金難により工房を畳まなければならなかったらしいのだが、技術自体は確かなものだと評判だったという。

 そしてその資金難とは、父親のギャンブル癖によるものだった。

 ギャンブルにどっぷりと浸かった父親は、工房の資金すらもギャンブルに注ぎ込み結果的に潰してしまう。さらには母親は家を出ていき、父親と男の子だけがこの場所に流れ着いた。

 

「今も父親は臨時で他の工房の仕事を受け、働いているみたいです。ただその賃金は全てギャンブルとお酒に・・・・・・」


 アメリアは言葉をそう締め括った。

 つまりあの男の子が痩せ細り、不衛生で不健康な状態にあるのは、全て父親のギャンブル癖のせいだということである。

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