第253話 飢餓感と必死さ

 そのまま冨岡はアメリアと入れ替わる形で屋台に入り、中で用意したハンバーガーをアメリアに手渡した。


「アメリアさん、その男の子の分です。渡してあげてください。それとこれも」


 ハンバーガーと一緒に紙コップに入れたオレンジジュースを渡す。

 受け取ったアメリアは、男の子に優しく微笑みかけた。


「喉に詰まらせないようゆっくり食べるんですよ」


 ハンバーガーとオレンジジュースをもらった男の子は、目を輝かせ口の端から涎を垂らす勢いで頷く。


「うん! ありがとう!」


 食べ物を目の前にした姿は、本来微笑ましいものであるはずなのだが、飢餓感と必死さが悲しさを覚えさせた。

 男の子は慌ててハンバーガーの包み紙を剥ぐと、顔を埋めるような勢いで齧り付く。

 口の端からポロポロと食べかすがこぼれ落ちることなど気にせず、ひたすら胃に捩じ込んでいるというような感じだ。


「んぐっ! はむっ! んんっ、ううっ」


 味を楽しむ、などという概念は感じられず、ただ飢えを凌ぐための食事。

 マナーなど持ち込む隙も与えないほど、必死に咀嚼と嚥下を繰り返していた。

 すると男の子は次第に涙を浮かべ始める。食べながら泣いている男の子が気になった冨岡だったが、声をかけようとしたタイミングで屋台に人が集まってきた。


「昨日ももらったんだが、もらってもいいのかい?」

「俺もくれ!」

「こっちもだ!」

「ああ、ありがたい。久しぶりの飯だ」


 昨日、アメリアたちが来ていたおかげで改めて説明する必要もなかった。人が人を呼び、用意していたハンバーガー分くらいの人が列を作る。

 そのおかげで冨岡はハンバーガーの準備に追われた。

 レボルは冨岡の隣でスープを作り、アメリアは屋台の外でハンバーガーを配る。

 列ができているのを見たフィーネが、外に出てアメリアを手伝うと言ったのだが、広場に比べて治安が悪いということから、冨岡が止めた。

 販売ではなく配布なので、お金のやり取りがない分アメリアの手が空く。一人でも問題ないだろう、という判断だ。

 もちろん、アメリアの身に何かが起きないよう、レボルが目を光らせている。

 途中、レボルの作っていたトマトベースの野菜スープが完成し、ハンバーガーと合わせて配った。どちらも無くなった頃、ちょうど集まっていた人には食事が行き渡り、冨岡はようやく手が空く。


「ふぅ、結構集まってくれましたね。レボルさんのスープも喜んでくれていましたし、今日はこの辺りで終わりますか」


 冨岡の言葉を聞いたレボルは満足そうに頷いた。


「そうですね。しかし、この屋台に積まれていた野菜は素晴らしい。それぞれの味、鮮度、そして色艶。そのどれもが申し分ない。それに加えて、チョウミリョウでしたっけ? スープの味を決めるこれら。料理人としてこれ以上に楽しいことはありませんよ」

「初めて見た食材と調味料をうまく組み合わせられるのは、レボルさんの技量ですよ。さて、アメリアさん。そろそろ片付けを・・・・・・」


 そう冨岡がアメリアに視線を送ると、彼女は心配そうな表情で先ほどの男の子を眺めていた。


「アメリアさん?」

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