第250話 かもしれないに溢れている。
「しなければならないこと、ですか?」
問いかけるレボル。
「そうなんですよ。実は・・・・・・」
冨岡がこの後すべきことを説明するとレボルは、まるで未知の生物にでも出会ったかのように唖然とした。
言葉を発せずにいるレボルに冨岡が微笑みかける。
「そういうことで、この後のことは仕事じゃないんですよ。利益を得るようなことでもないですし、したくてしていることなので誰かを付き合わせるようなことじゃないんです」
それを聞いたレボルは首を横に振った。
「だったら尚更ですよ」
「え?」
「お話ししたでしょう、私が家族を失ったことを。もしかすると死んでいたのは私で、家族を残していたかもしれない。そうなっていれば、まともに食べていくことができなかったかもしれない。世の中は数えきれないほどの『かもしれない』で溢れています。そんな『かもしれない』にできる限り施すことで、いずれ私自身も救われるかもしれない」
「レボルさん・・・・・・」
そんなレボルの精神に感動を覚える冨岡。
するとレボルは「それに」と言葉を付け足した。
「いくら美味しいとはいえ、ハンバーガーだけでは物足りなくなるでしょう。その時には、料理人として店を持っていた私の手数が役に立つかもしれません」
真っ赤なお鼻のトナカイさんみたいだな、と思いながらその優しさを冨岡は受け取る。
「ありがとうございます。そう言ってくれると心強いですよ」
「ははっ、そうは言ってもトミオカさんの方が手数が多いかもしれないですけどね。それに同行したいのは私の我儘でもあります。今は少しでも料理の現場に触れていたい」
レボルにも利益はあるということだ。
もちろん、彼の行動は冨岡にとってもありがたい。純粋に人手が増えるだけでなく、レボルは護衛も兼任している。
どんな時代、どんな国でも経済状況のよくない地域は、治安もよくない可能性が高い。権力から見放された土地であれば尚更だ。
この街の貧民街でもその法則が適応されるならば、レボルの存在は安心に直結する。
心強い協力者を得た冨岡は片付けを済ませてから、屋台を貧民街の方向に向けて引き始めた。
「レボルさんも屋台に乗ってください」
冨岡がそう勧めるとレボルは、一瞬驚いてから手で煽ぐようにして『お断り』の意思を示す。
「いえいえ、むしろこれは肉体労働なのですから私の仕事でしょう。代わりますよ」
「何言ってるんですか、ここから先は仕事じゃないのでレボルさんはゆっくりしててください」
優しく答えてから冨岡は今日仕入れたばかりの商品を思い出した。
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