第241話 朝の緑茶

 魚の調理は思っていたよりも時間がかかった。結果的にアメリアがメルルズパンに向かってから、それなりの時間が経過している。

 もう少し待っていれば帰ってくるはずだ。

 しかし、アメリアの要望はフィーネが空腹を主張すれば食べさせておいてくれ、というもの。

 本人の意思を尊重するために冨岡は問いかけたのである。

 するとフィーネは、少しも考えることなく首を横に振った。


「まだ食べない! 先生が帰ってきてから食べるの」

「そっか、そうだね。俺もその方がいいと思うよ。じゃあ、お茶でも淹れて待ってようか」

「お茶? 昨日のミルクティー? ってやつ?」

「ははっ、随分ミルクティーを気に入ってくれたみたいだね。でも和食とミルクティーを合わせることはあんまりないかな。緑茶があったはずだから、氷を入れて冷茶にしよう」


 アメリアを待つ時間の活用方法を見つけ、冨岡は緑茶を淹れる。紅茶の時とは違い、それほど緑茶のことを知らない冨岡。

 お湯も何度が適温なのかわからない。どうせ冷やすだろう、と考え紅茶と同じように高温で淹れる。

 

「よし、これでいいな。本格的な製氷機があれば、冷たい飲み物を売ることもできる・・・・・・か。どれくらいの値段なのか調べてみるのもありだね。いや、魔法もない中世ヨーロッパなら、氷は貴重かも知れないけど、魔法のあるこの世界じゃあ冷たい飲み物くらいそれほど珍しくないか?」


 そんなことを呟きながら冷茶を完成させた冨岡が、食卓に全てを並べ終えると外で足音が聞こえた。


「先生だ!」


 いち早く気づいたフィーネは嬉しそうに言い、屋台を飛び出して行く。


「フィーネちゃん、走ると危ないよ!」


 声をかけても止まらない小さな背中に微笑みを向けながら、冨岡は後を追った。

 その先には木箱をリアカーから下ろしているアメリアがいる。言わずもがな、木箱の中身はパンだ。


「お帰りなさい、先生!」

「あら、フィーネ。朝食を食べていると思っていましたが」

「ううん、待ってたの!」


 フィーネの言葉を聞いたアメリアが、目線を上げて富岡を見る。


「先に食べても良いって言ってたんですけど、フィーネちゃんがアメリアさんを待つって。一緒に食べたいんですよ」

「そうでしたか。それじゃあ、早く荷下ろしを終わらせて朝食にしましょう」


 アメリアがそう笑顔を浮かべると、冨岡は釣られたように笑みを向けた。


「残りの荷下ろしは俺がしておきますよ。アメリアさんは手を洗ってきてください。その方が早いですからね」

「フィーネも手伝う!」


 二人の好意を受け、アメリアは素直に頷く。


「ありがとうございます。それじゃあ、お願いしますね」

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