第232話 ミルクで割ってまろやかに

 一人屋台に向かった冨岡は食材を保管している棚を確認した。


「今から何か作る時間はないしなぁ。せめてお茶くらいはしっかりしたものを淹れて、おやつはクッキーにするか」


 スーパーで買ったクッキーと、少しお高めの紅茶を取り出しお湯を沸かす。

 まだ五歳のフィーネは渋い紅茶を飲めないだろう、と甘めのミルクティーにしようと牛乳と砂糖を用意。


「ミルクティーにするんだから、アッサムとセイロンのブレンドががいいな。英国王室御用達のこれにしよう。コクと爽やかさが段違いだし。やっぱり伝統のある正統派ブランドは間違いない」


 実は冨岡は紅茶が大好きである。源次郎が日本茶を好んでいたため、幼い頃に飲むことはなかったが、一人暮らしを始め紅茶を飲んでみると驚くほど舌に合い、その味に惚れ込んだ。

 休日には紅茶の専門店に通うほど、のめり込んでいたのである。

 冨岡はお気に入りのティーポットを使い、お湯の温度にも気を遣う。


「紅茶を淹れる温度は好みにもよるけど、九十五度以上だ。紅茶の風味を出す成分、タンニンは九十五度以上じゃないと出ない。それに比べてカフェインは八十度で出てくるから、九十五度以下だとエグ味が強い紅茶になってしまう。ここで注意したいのはお湯が九十五度以上になるタイミングだね。沸き始めは大体九十三度。グラグラと湧き立っている時で九十八度。しっかりと沸かさないと風味が出ないんだよなぁ」


 紅茶専門店で店員さんから聞いた知識を呟きながら、九十八度以上を目指してお湯を沸かした。


「ここまで温度に気遣っているのに、そのまま淹れるのは勿体無い。ティーポット自体の温度を上げておかないと一気に冷めちゃうから、先にお湯を淹れておくんだ。ラーメン屋さんが器を温めておくのと同じだね」


 もしもこの話をアメリアやフィーネが聞いていれば辟易していることだろう。

 そこからも冨岡は一人で紅茶講座を行いながら、自分の考える最高のミルクティーを完成させた。

 まるでタイミングを見計らったかのように、ミルクティーの完成と同時にアメリアたちが屋台に入ってくる。


「終わったよー!」


 元気よく笑顔を見せるフィーネ。

 二人に向かって微笑みながら冨岡は机の上にクッキーと紅茶を置く。

 もちろんこの時間は食後のティータイムなのだが、それだけではない。中々切り出しにくい話をするために、落ち着く時間を冨岡が意図的に作り出したのだった。

 

「まずはお茶をどうぞ」


 自信満々に冨岡がミルクティーを勧めるとアメリアとフィーネは、首を傾げてまじまじとカップの中を覗き込む。


「これは・・・・・・?」


 そう問いかけるアメリアに、冨岡は嬉々として説明を始めた。


「これはミルクティーです。紅茶をミルクで割ったものなんですけど、見慣れないですか?」

「ええ、お茶をミルクで割るなんて聞いたこともありません。けど、すごくいい匂いがしますね」

「俺の好きなものを知ってもらおうと思って。美味しいと思ってもらえるなら、ミルクティーもメニューに加えていいかもしれません。ハンバーガーは喉が渇く食べ物ですからね」

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