　屋台の中を外から覗き込むとすっかり片付けられており、あとは明日の仕込みくらいかと思いながら冨岡は教会内の食堂に向かう。

　扉を開けて食堂に入ると、アメリアがフィーネに勉強を教えているところだった。

「いいですか？　この場合はこう書くんです。フィーネが書いていた文字でも意味は通じるのですが、これは男性名詞と言って女性を指す時には使えません。この文章の場合、女性が」

　そこにちょうど冨岡が帰ってきたのである。

「ただいま戻りましたー」

　冨岡がそう言うと、椅子に座っていたフィーネが勢いよく立ち上がり、飛びかかってきた。

「トミオカさん！」

「うわっと」

　抱きついてきたフィーネを落とさないように冨岡は慌てて受け止める。何も持っていなくて良かった、と安堵しながら言葉を返す。

「ただいま、フィーネちゃん」

「おかえりなさい！」

　フィーネの背後ではアメリアが微笑んでいた。

「こらこら、フィーネ。ダメですよ、トミオカさんがびっくりしてるでしょう。ふふっ、おかえりなさい」

「ただいまです。フィーネちゃんに勉強を教えてたんですね？」

「ええ、ありがたいことに私は文字の読み書きができますので、フィーネにもできるようになってもらおうと」

　アメリアの口ぶりから推測するに、この国の識字率はそれほど高くないのだろう。その中で読み書きができるというのは立派な武器になるはずだ。

「そうだったんですか、フィーネちゃんも真面目に教わってましたね。あ、そうだ、夕食はもう食べましたか？」

　冨岡が問いかけると、アメリアよりも先にフィーネが答える。

「食べたよー！　先生がお肉焼いてくれたのと、パンと、野菜にどれっしんぐ？　かけたの！」

　食べたメニューを嬉々として伝える可愛らしいフィーネ。その表情から満足できる食事だったことがわかる。満足できる食事の幸福度は高く、初めてあった頃のフィーネとは比べられないほど明るい笑顔を見せていた。

　そう考えると肉付きも良くなったように感じる。

　冨岡はそんなフィーネの表情に安心しながら頷いた。

「そっか。俺もちょっと食べてきたし、晩ごはんはいいかな？　フィーネちゃんの勉強が終わったらお茶を淹れてちょっとしたおやつでも食べましょう」

　アメリアに提案すると、彼女もおやつという言葉に弱いのか瞳を輝かせて口角を上げる。

「いいですね！　じゃあ、早く終わらせましょう。ほら、フィーネ。これが終わったらおやつだそうですから、頑張りましょう」

「うん！　フィーネ頑張る！」

　冨岡の腕から離れたフィーネは急いで机に戻り、文字の勉強を再開。

　そんな二人の姿を微笑ましいと感じながら、冨岡はおやつを準備するために退室する。

「それじゃあ、おやつを準備してきますね。終わったら屋台に来てください」

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