第230話 金貨三百枚

 家の中に蓄えておいた非常食のカップ麺を食べると、ある程度の金を封筒に入れて玄関に置く。

 便箋に「美作さんへ。多めにお金を置いておきます。余った分は次の買い出しに使ってください」と書いて残し、封筒の横に添えた。


「これでいいか」


 そう呟き、冨岡は再び異世界に戻る。

 鏡から裏路地に帰ってきた冨岡は、ふと空を見上げた。

 夕暮れと呼ぶには暗く、夜と呼ぶには明るい。そんな中途半端な時間。

 今から何か新しい仕事を探すなんてことはできそうにもないが、寝るには早い。

 風の涼しさを感じながら教会に戻ると、教会の前にミルコの姿があった。

 ミルコは教会の前でしゃがみ込み、木の枝で地面に何かを描いている。

 冨岡は何をしているんだろう、と近づき、背後から声をかけた。


「ミルコじゃないですか。何してんのさ?」


 突然話しかけられたミルコは、ビクッと体を痙攣させてから振り返る。


「うわっと、びっくりした。アンタ・・・・・・じゃなくてトミオカさんか」

「アンタでいいですよ。こんな時間に何か用?」

「別に用ってほどでもないさ。会いにきたってわけでもなくてな」


 ミルコはそう言いながら、先程まで地面に描いていた絵を指差した。

 地面には教会の絵が描かれ、矢印と何か文字が付け足されている。


「これは?」

「教会建て替えの見積もりをちょっとな。どこが壊れてるのか軽く見てたんだ。まぁ、中も見てみないと全部わからないけど、外を見るだけでも結構きてるな。少なくとも外壁は全取っ替えしなきゃならん」

「あー、そうですか。全部立て替え、ってなったらどれくらいかかりそう?」

「そりゃ建て替え後の規模によるわな。小さい建物にすりゃ安く済ますことはできるが、これと同じくらいの建物にしようとすりゃあ、職人の儲けなしでも金貨二百枚から三百枚くらいは必要になるぜ」


 金貨二百枚から三百枚。日本円に換算すると二千万円から三千万円程度。

 土地代なしでの値段ならばそれくらいか、と冨岡は納得する。むしろこの大きさでその値段ならば安いくらいだ。

 冨岡が頷いているとミルコが立ち上がる。


「大雑把でも見積もりしとかなきゃアンタとしても建て替えを決めようがないだろう? そう思ってな、迷惑かもしれねぇが来させてもらったんだよ。中を見させてもらえれば、もう少し正確な見積もりができると思うぜ?」

「中か・・・・・・ちょっとそれは・・・・・・まだアメリアさんにも話してないから、今度でもいいか?」

「ああ、いつでもかまわねぇよ。それじゃあ、俺はこれで一旦帰るわ」


 ミルコと別れの挨拶を交わし、冨岡はアメリアたちが待つ教会に帰った。

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