第221話 穏やかな男
冨岡が『穏やかな人柄』を条件として付け足したのは、言わずもがなアメリアたちの為だ。
人手不足だからといって、アメリアやフィーネが居づらい状況にするわけにはいかない。
また接客業である以上、威圧感は必要なく、むしろ客が入りづらくなるだろう。
穏やかかつ、料理ができて、長期雇用が可能な冒険者などそれほど多くは居ない。今すぐ紹介できるというのは冨岡にとって幸運だった。
「えっと、どの人ですか?」
冨岡は背後を振り返り、冒険者たちが酒を飲んでいる机を見回す。
するとシルフィは椅子から立ち上がり、カウンター越しに指し示した。
「あちらです。ちょうど階段前に一人でいる方が見えますか?」
視線を誘導された冨岡が、階段前を見ると四十代程の男性が一人で静かに酒を飲んでいる。
木製のジョッキらしきもので飲んでいるため中身は見えないが、実に美味そうに飲んでいた。
「あー、あの人ですか? 確かに穏やかそうですね」
その男性は革製の装備を身につけており、いかにも冒険者といった服装なのだが、容姿は温和を醸し出していて不釣り合いに見える。
パーマ風な髪型も柔らかな印象を与え、常に微笑んでいるような垂れ目が安心感を覚えさせた。
冨岡が視認した直後、シルフィは男性の説明を付け足す。
「あの人はレボル・ボルドーイさんです。最近この街に住み始めたのですが、大きな依頼を受けることはなく、ちょっとした護衛や素材採取でその日の生活費を稼いでいるみたいですね。元料理人だそうなので、先ほど話されていた条件と相違ないかと。もしよろしければ、このままご紹介しますよ」
「それじゃあ、お願いします。話を聞いてみないと分からないですからね」
「かしこまりました」
シルフィはそう答えてカウンターの端から冨岡側に出てきた。冨岡はケージ越しに飼い主を追いかける猫のようにシルフィについていき、そのまま二人でレボルの机に向かった。
「レボルさん」
レボルに近づきながらシルフィが声をかけると、彼はジョッキから視線を上げ首を傾げる。
「ん? どうしたんだい、シルフィ。何か指名依頼かな? なんて、私にそんな話が来るわけないか。ちょっとした冗談だよ」
レボルは柔らかな声で言ってから微笑んだ。
だがシルフィはその冗談に笑うことなく「その通りです」と答える。
「その通り? 本当に指名依頼ってことかい?」
「ええ、こちらの方がレボルさんにご依頼したいことがあると」
そこでようやくレボルは冨岡に気づき、軽く会釈をした。
「私に指名依頼・・・・・・どうも、レボル・ボルドーイです」
「冨岡です。少し特殊な依頼なのでレボルさんの話を聞きたくて、お酒を飲んでる時に失礼します」
「そうでしたか。いえいえ、一人で寂しく飲んでいたところなのでちょうどよかったです。どうです、一緒に飲みながら話しませんか? シルフィ、こちらのトミオカさんに同じものをお願いしてもいいかな?」
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