第222話 異世界の夜に乾杯を

 レボルにそう言われた冨岡は、そのまま彼に向かい合う形で椅子に座る。

 酒の注文を受けたシルフィは「かしこまりました」と、レボルが飲んでいたものと同じ酒を持っきた。


「どうぞ。依頼の話が決まりましたら、紹介料の支払いをお願いします。ごく稀に紹介料を省くため直接雇用しようとする方がいるのですが、今後冒険者ギルドの仲介を受けられなくなりますし、冒険者側も除籍になりますのでご注意ください」

「あ、これの料金を」

 

 冨岡が懐を探るとシルフィは首を横に振った。


「レボルさんがギルドに買い置きしているものですので、お代は結構ですよ」


 そう言い残し、シルフィはカウンターに戻る。

 穏やかとはいえ、冒険者と向き合っている冨岡は緊張気味に口を開いた。


「ありがとうございます、レボルさん。それで、話っていうのは」


 冨岡が言いかけた瞬間、レボルはジョッキを持ち上げ優しく微笑む。


「まずは乾杯にしませんか。せっかくの出会いですからね」

「あ、はい。そうですね、じゃあ」


 指示に従い、冨岡もジョッキを持ち上げた。


「酒の神に感謝を・・・・・・乾杯」

「乾杯」


 ジョッキを合わせ、冨岡は酒を口に含む。おそらく果実酒のようなものだろう。甘みと酸味が一体となり、酒精独特の風味が鼻を抜けた。

 冨岡がいた世界の酒と比べれば雑味の多いものだったが、どこか懐かしいように感じる。

 また冨岡の想像する果実酒よりもアルコール度数が高く、自分の吐息が熱い。


「果実感が強いですね。度数の高い酒なのに飲みやすくて、酸味のおかげでスッキリしてる」


 思わず冨岡が感想を述べると、レボルは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「気に入っていただけましたか、それは良かった。この酒は珍しい果実を使ったものでしてね、蜂蜜酒のようなくどさがなく飲みやすいんですよ。この酒を美味いと言ってくれる方なら気が合いそうだ。お話を聞かせていただいても?」

「あ、はい」


 レボルに促された冨岡は本題に入る。


「何から説明すればいいかな・・・・・・えっと、簡潔に言うと屋台の護衛兼調理係を探しているんです」

「護衛兼調理係? それは珍しい依頼ですね」

「最近屋台を始めたのですが、トラブルに巻き込まれることが多くて困ってたんです。護衛がいれば何があっても安心かな、と」

「ほう、なるほど。こんなことを言ってはなんですが、護衛だけならば私よりも実績のある冒険者がいるでしょう。何故、調理係との兼任を?」


 問いかけられた冨岡は、どう説明すればわかりやすかと考えてから答える。


「一番の理由は、俺が屋台につきっきりだと他の仕事ができないからです。調理係が一人いれば俺は屋台から離れることができる。護衛と兼任にしようと思ったのは、物々しい雰囲気を作りたくなかったからですね」

「物々しい雰囲気ですか?」

「ええ、屋台の前に護衛がいたのでは、落ち着いて食事できないでしょう。調理係が護衛と兼任していれば、雰囲気を崩すことなく屋台の安全を守ることができる。そう思ったんですよ」

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