第219話 派遣と斡旋

 冒険者ギルドの受付嬢に確認された冨岡は、自分の依頼が型破りなものであると再確認し、首を横に振った。


「いえ、この街の中で、です」

「この街の中で護衛のご依頼ですか? 何か高価な取引でも行われるということでしょうか。すみません、冒険者に依頼書を出す際に、なるべく詳細に書いておかなければならないものでして。もしも内容を明かさず護衛を依頼したいのであれば、冒険者ではなく傭兵にご依頼されるのをお勧めします」


 どうやらこの受付嬢は、冨岡を商人と想定し話を進めているらしい。その上で、過去の依頼例から大きな取引でもあり、その護衛を依頼しにきたのだと判断した。

 高価なものを取引する際、それを奪われないように護衛をつけるのは普通のことである。

 しかし、冒険者ギルドで依頼を出せば、その取引の秘匿性は失われる。そうなれば取引の情報は漏れ、何者かに襲われる可能性は高くなるのだ。

 冨岡は受付嬢の言葉から、彼女の善意で忠告してくれているのだと理解し、冒険者ギルドが思っていたよりも依頼者に寄り添う場所なのだと安心感を覚える。


「ご忠告ありがとうございます。でも、秘密にしたい大きな取引をするわけじゃないんですよ」

「あれ、違いましたか。確かに取引の護衛に『料理ができる』なんて条件は必要ないですもんね。それではご依頼の内容をお聞きしてもよろしいですか?」


 そう問いかけられた冨岡は、改めて依頼内容を言葉にした。


「あ、はい。先ほども言ったように料理ができる護衛を探しています。可能なら短期ではなく、長期でずっと働いてくれる方がいいですね」

「長期で、ですか」

「長期です。つい最近、食べ物の屋台を始めたのですが、トラブルに巻き込まれることが多くて・・・・・・それに加えて働いているのが俺と女性、小さな子だけとなれば、やっぱり心配じゃないですか。そこに料理ができる護衛がいれば安心かなぁ、と思ったんです」

「なるほど、そういうことでしたか。それでは冒険者の派遣ではなく斡旋という形になりますね」


 受付嬢はそう言ってから手元の資料から何枚かを冨岡側に向ける。


「通常のご依頼が派遣という形になりまして、ご依頼金をギルドの方で頂き、ご依頼達成時にその中から冒険者に成功報酬を支払います。斡旋であれば、ご依頼金はなく紹介料をいただくことになるんです。ギルドでは紹介料だけ頂き、必要とされる冒険者を紹介致します。冒険者との間に発生する賃金は、直接冒険者自身と交渉、契約してください。ここまでで何かご不明な点はございますか?」

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