第217話 二人と約束

 冨岡の言葉を聞いたアメリアは、少し考えてから釣られたように口角を上げた。


「ふふっ、やっぱりトミオカさんは他の商人方とは違う方向から見ていますね。普通、困っている人がいればそこにつけ込んで自分の利を得ようとするものです。如何に安く雇うか、そう考えて貧民街で人を募集する商人はいても、そこに埋もれた才能を見出そうとするなんて」

「変ですかね?」

「素敵です、すごく」

「アメリアさんにそう言ってもらえて良かったですよ。次は俺も貧民街に同行して、誰か雇える人がいないか見てみたいです」


 正しい賃金で雇えば誰かが明日以降も生きていくことができる。

 それが当然だと自分の正義を押し付ける気はないが、少なくとも冨岡はそんな人間でありたいと思っていた。亡き祖父、源次郎のためにも。

 貧民街の話を終えた冨岡はもう一度話を冒険者ギルドの件に戻す。


「冒険者ギルドには行こうと思うのですが、これ以上遅くなるとフィーネちゃんが疲れちゃいますね。一度屋台を教会に戻してから俺だけで行ってみます」


 冨岡がそう言うとアメリアは心配そうに彼の顔を覗き込んだ。


「お一人で大丈夫ですか?」

「場所がわからないので地図だけ描いてもらえれば。何かあっても護身用の武器がありますからね」


 冨岡はそう言いながらカウンターの下に置いていたスタンガンに目をやる。

 こちらの世界で生きてきた者が、初見でスタンガンを見破り回避するのは不可能に近い。一度だけであれば、剣や槍よりも身を守るだろう。

 そんな冨岡に対してフィーネが首を傾げて問いかけた。


「フィーネが守ってあげなくても平気?」

「ははっ、そうだね。この間も今回もフィーネちゃんに助けられてたもんな。でも大丈夫だよ、ありがとう。フィーネちゃんはアメリアさんと二人で晩御飯食べててくれるかい? 残った時間でこの間渡した計算問題を解いてて」

「お勉強?」

「そうだよ。フィーネちゃんにとって一番大切な仕事だ」


 するとフィーネは口を『への字』にして、諦めたように頷く。


「わかった・・・・・・早く帰ってきてね」

「フィーネちゃんが寝るまでには帰るよ」


 冨岡がフィーネとそんな約束をすると、アメリアは拗ねたように唇を尖らせた。


「約束はフィーネとだけですか?」

「え?」

「早く帰ってくるのもそうですが、無事に帰ってくることを約束してください」


 そんなアメリアを可愛らしく思い、冨岡はついつい口元が緩む。


「ははっ、わかりました。無事に帰ってきますから、フィーネちゃんと晩御飯を食べててください。材料は屋台にあるものどれでも使っていいですから」

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