第211話 解決方法

 冨岡は苦笑しながら、ダルクが自分の方に向き直るのを眺めていた。

 ダルクはミルコに対してキュルケース家の意向を伝え、互いの立場をはっきりさせた上で話を続ける。


「さて、話を戻しましょうか。ミルコさん・・・・・・でしたね? 私としてはトミオカ様から二つの依頼を受けたと認識しています。まずはミルコさんの新しい仕事を紹介すること。そしてもう一つは貴方の家族に危害が及ばないよう、キュルケース家が目を光らせておくこと。間違いはないですか?」


 その問いかけは冨岡に向けられていた。


「そうです。話が早くて助かりますよ」

「ふむ、バルメディ子爵側が手出しできないようにすればいい・・・・・・でしたかな? 一番手っ取り早い方法としては、ミルコさんをキュルケース家で雇うことですが、今は人手が足りておりますね。それに仕事の適性を聞かなければ決められません。ゴルザード」


 ダルクはそう言いながらゴルザードに手を伸ばす。

 自分に向けて開かれた手のひらでダルクの指示を察したゴルザードは、どこに持っていたのかわからない羊皮紙を一枚手渡した。

 そこには冨岡には読めない文字で何かが書かれている。


「ふむふむ、前職は大工・・・・・・それもご自分で工房を持たれていたのですか。なるほどなるほど」


 どうやらそこには、ミルコの経歴などが書かれているらしい。

 一体どのタイミングで調べたのか、どのように用意したのか、おそらく考えてもわからないので冨岡は黙って話を聞いていた。


「工房を持っていた、と言うのは語弊がありますな。職業組合に廃業届を出さない限り、工房がなくなることはありません。今もまだ、ミルコさんの工房は存在しているということです」


 ダルクが細かく確認するとミルコは納得したように頷く。


「あ、ああ、確かに。仕事がなくなり立ちいかなくなってしまったが、廃業届けは出してない・・・・・・正確にはまだ俺の工房は残ってる。ただ徒弟もいないし、資材も工場もない状態だよ。紙切れ一枚の工房さ」


 ミルコの話を聞いたダルクは何度か頷き考えた上で、改めて冨岡に話しかけた。


「トミオカ様、どうでしょう。ミルコさんを丸々キュルケース家が買い取るという形では」


 その解決案を聞いた冨岡は先ほどの発言と食い違っていることに気づく。


「あれ、人手は足りてるって言ってませんでしたか?」

「キュルケース家の中では足りておりますよ。使用人として雇うつもりはございません。それにせっかくの工房を眠らせておくのも、ミルコさんの能力を活かさないのも勿体無いじゃないですか。ですので、キュルケース家が新規事業として工房を持つ、という形ではどうでしょう。キュルケース家の名前を冠するだけで、今まで通りの工房として営んでいただきます。そうすればバルメディ家から危害を加えられることも、仕事がないということもありません」

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