第210話 ダルクの脅し
ミルコからこの世界の就職事情について聞いていると、思っていたよりも早くゴルザードが戻ってきた。
屋台の外から声をかけ、冨岡の許可を得てから入室する。
「お待たせしました」
「戻ってくるの早すぎません? もしかして、外に車を待たせてました?」
冨岡が問いかけると、ゴルザードの背後にいたダルクが顔を覗かせた。
「流石ですな、トミオカ様。何かあった時に対応できるよう、護衛と共にフォンガ車を用意しておきました」
ダルクの顔を見た冨岡は椅子から立ち上がり、茶化すように文句を言う。
「あ、ダルクさん。監視するのなら言っておいてくださいよ」
「監視ではなく護衛でございます。事前にお話ししたのではトミオカ様が遠慮される可能性があります故。もしもトミオカ様の身に何かあれば、旦那様にもお嬢様にも叱られますからね」
謝罪するよりも先に正当性を主張するダルク。人間は相手が謝罪すると、そこに上下関係を見出しがちである。それを理解している彼の返答からは、濃密な人生経験の片鱗が感じられた。
「まぁ、結果的にゴルザードさんがいてくれたおかげで話が早くなりましたよ」
「お役に立てて光栄です」
「この人は・・・・・・いいや、弁では勝てない。それで、ゴルザードさんから話は聞いていますか?」
「ええ、ここに向かう車の中で・・・・・・こちらが例の?」
ダルクはそう言いながらミルコに視線を置く。
突然現れた公爵家の関係者。身なりや所作からそれなりの立場だと思われる男の視線を受け、ミルコは緊張を覚えた。
冨岡から「そうです」という返答を得たダルクは、ミルコの目前に迫り、体を曲げて目線の高さを合わせる。
「幸運でしたね」
ダルクが言うと、ミルコはこの状況のことだろう、と判断し頷いた。
「あ、ええ。公爵家と関係のある店主だったのは・・・・・・」
そう答えるミルコに対してダルクは、冷たい声色でそっと言葉を飾るように言う。
「違いますよ」
「え?」
「トミオカ様に傷ひとつなくて良かったという話です。そしてそれが貴方にとっての幸運・・・・・・もしも、トミオカ様が傷を・・・・・・いえ、言い換えましょう。もしも旦那様やお嬢様が悲しむようなことになっていれば、キュルケース公爵家は全てを出し切っていたでしょう。巨大な岩石が降り注げば、それほど信念を持った草が生えていようとも、擦り潰されるでしょう。どうか頭上にお気をつけください」
直接的な言葉を使わない脅し。他の貴族関係者ならば恫喝の如き言葉遣いだったのだろう、と考えれば優しいのかもしれない。
もちろんこれはダルクが冨岡を思うが故の言葉だ。
しかし、冨岡はそんなことを望んではいない。
「ダルクさん、脅すのはやめてください」
「はっはっは、脅しではありませんよ」
「脅しじゃないって脅し言葉が一番怖いですよ」
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