第209話 人手か仕事か

 冨岡としては、アメリアが大切に守ってきた教会を基準に学園を作るつもりでいた。

 しかし、建物にも寿命はある。安全に住むことができない場所で子どもを育てるのは危険だ。

 補修ができないとなれば建て替えをするしかない。そうなれば、学園作りは建物からということになる。


「そうかぁ、薄々そんな感じがしてたけど、そうだよな。コツコツ稼ぐことも大切だけど、それじゃあ建築費が貯まるのはいつになるのか・・・・・・」


 考えるべきことが多すぎて前途多難に感じる。

 直近で言えば、ミルコの今後をキュルケース家に託すこと、冒険者ギルドで人を雇うこと、新しく教会に住む子の受け入れなど、軽く考えただけでも頭がいっぱいになるほどだ。

 長期的に考えれば、建物の建て直し、大きな収益の得られる仕事、子どもたちが働かなくてもいいように学園として機能させるための教師や世話係の雇用。

 当然なのだが、冨岡の体は一つしかない。一人で全てをこなすには限界があった。


「稼ぐためには俺が自由に動けなきゃな。一番時間食ってるのは・・・・・・そっか『向こう』での買い出しだ」


 そう呟きながら思考を巡らせる冨岡。

 元の世界でしか手に入らない食材や備品が多く、買い出しには四時間以上かかる。その時間を削ることができれば、より効率的に動けるだろう。

 

「あとはこの屋台を誰かに任せて、学園作りに動き出さなきゃな」


 一人で話している冨岡に対して、何を言っているんだろうと首を傾げるミルコ。


「俺が言うのも何だが、アンタ大丈夫か? 何かに追い込まれてねぇかい」

「これだけ追い詰められてたミルコに心配されるくらいかな、俺。いやぁ、人手不足だな、と思っただけですよ。まぁ、そりゃ、商売に人手不足はつきものか」

「何言ってんだ、アンタ」


 これ以上ないくらいポカンとしたミルコが聞き返す。

 冨岡側もどうして聞き返されたのか分からず疑問符を浮かべた。


「何がです?」

「俺の話聞いてたか?」

「そりゃあ聞いてましたよ。めちゃくちゃ大変だったんでしょ」

「簡単にまとめたな。それはいいんだが、本当に人手不足なら俺はここまで追い詰められてねぇってことさ。仕事したい奴はいくらでもいるよ、だが食っていけるような仕事がねぇんだ。ちゃんとした仕事さえあれば何でもしたいって連中だらけだよ」


 ミルコにそう言われた冨岡は未だに元の世界基準で物事を考えていたと気づく。

 一番身近であるアメリアが特殊な立場にいるだけで、この世界では人手が飽和していた。

 もちろん、生活できないほどの低賃金な仕事はある。しかししっかりとした仕事となれば別だ。

 

「あ、そっか。人手じゃなくて仕事が不足してるんだ。じゃあ、もしもちゃんとした正規雇用の仕事があれば、働きたい人は多いです?」

「そりゃそうさ。願ってもない話だぜ。そんな話があれば、悪事に手を染めないで生きていけるやつも多いかもな」

「ミルコが言うと説得力あるね」

「いや・・・・・・返す言葉もない」

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