第206話 どちらが得か
冨岡は推理を披露してからため息をつく。
これほどわかりやすい悪役貴族もいるものなのか。呆れた単細胞である。
金で相手を縛り、それでもダメなら暴力。これがこの世界の当然ならば、アメリアが貴族に対し苦手意識を持っているのも仕方がないだろう。
何にせよ、ジルホークの行動は許し難い。
「とりあえず、ミルコから聞ける話はこれくらいかな? じゃあ、これを」
そう言って冨岡は売り上げから約束の金貨二枚をミルコに手渡した。
「ほ、本当にいいのか?」
「それで次の仕事を見つけるまで食い繋ぐことができますか?」
「ああ、何とか・・・・・・」
苦しそうな表情で答えるミルコ。彼からしてみれば、これ以上望むことはできない状況だ。
しかし、ジルホークが尖兵とするために職を失い、いつ子爵家から攻撃を受けるかわからないという恐怖を抱え続けている。金貨二枚で食い繋げたとしても、そんな彼が新しい職を見つけるのは難しいだろう。
「この人も被害者か・・・・・・」
冨岡はそう呟いてから腕を組んだ。
全てはジルホークがアメリアを手にいれるために考えた策だとすれば、ミルコは都合よく使われただけ。
もしも冨岡が逆の立場であれば、アメリアやフィーネを守るために何でもするだろう。
既にミルコへの怒りは消え去っていた。
「ゴルザードさん、お願いがあるんですけど」
「まさか、トミオカ様・・・・・・」
「ええ、そのまさかです。ダルクさんに話を通していただけますか?」
「こう言っては何ですが、あまりにお人好しすぎませんか」
「ははっ、だって仕方ないじゃないですか。この人、困ってますから」
笑いながら冨岡はミルコに視線を送る。
祖父、源次郎が遺した言葉は『困っている人を救え』だ。
全ての人を救うのは難しいにしても、目の前で困っていればその枠内に入る。
冨岡の信念を知らないゴルザードだが、キュルケース家が密かに護衛するほど大切にしている男の願いを自分が拒否するわけにはいかない。
「分かりました。それでは、一度この場を離れさせていただいてよろしいですか?」
この確認は『自分がいなくても大丈夫か』と同義だ。
もう既にミルコに戦意はなく、金も渡してある。今更冨岡を襲う理由などないだろう。
一応、今から冨岡を手にかけ、バルメディ家に恩を売るという策も存在するが、そうなれば更に爵位が上であるキュルケース家を敵に回すことになる。
どちらが得なのか考えるまでもない。
「大丈夫ですよ。ミルコと世間話でもして待ってますから、お願いします」
「かしこまりました。どうかお気をつけて」
そう言い残し、ゴルザードは屋台から退出した。
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