第205話 ジルホークの思惑

 概ね想像通りだったが、冨岡は『バルメディ』という名前に引っ掛かりを感じた。


「子爵・・・・・・バルメディ・・・・・・どっかで聞いたことあるような。何となく嫌悪感を・・・・・・」


 記憶を辿り、引っ掛かりの正体を探るが、様々な情報が交錯して思い出せない。

 そんな冨岡の反応に違和感を覚えたゴルザードは、首を傾げて声をかけた。


「どうかしましたか、トミオカ様。もしや、貴族様がそのような悪事を働くなど信じられないでしょうか?」

「いやむしろ俺は、権力者ほど自分の立場に固執し、何でもするものだと思ってます。アメリアさんから聞いた話もありますし・・・・・・ってそうだ! アメリアさんの話だ。家名の方は一度しか聞いていなかったから、嫌悪感でのみ残ってたんだな。あのゴルザードさん、一応確認なんですけどバメルディ家にジルホークって奴はいますか?」


 冨岡が問いかけると、ゴルザードは間髪入れずに即答する。


「ええ、バメルディ家の御長男様ですね」


 ゴルザードの答えを聞き、冨岡が反応する前にミルコが身を乗り出した。


「そいつだ、俺を脅してきたのはジルホーク・バメルディ! ドレッサード商会と結託して、裏から俺の仕事を奪い・・・・・・失業した俺が金に困り始めたタイミングで、さっき話した『飴と鞭』を持ち出してきやがった」


 ここまでの話を総合することで、冨岡はようやく話の輪郭を掴み始める。


「ここでジルホークに繋がるのか。いや、確かに違和感はあったんですよ。この屋台が多少売り上げようとも、まだ大きな商会にそれほどダメージはないはずです。危険を冒してまでこんなに早く動いてくる必要はない。もっと脅威になってからでも、遅くはないでしょう。それに貴族が表立って出てくる必要もない」

「なるほど、トミオカ様の言う通りですね。貴族家の名前を出せばある程度の無理は通るが故に、泥を被るような名前の出し方はしないでしょう。バルメディ家に脅される覚えがあるんですか?」

「・・・・・・バルメディ家長男のジルホークは、アメリアさんに関係を迫っていました。しかし、アメリアさんはそれを拒絶・・・・・・無理やり自分のものにするため、強行策に出たってとこでしょう」


 さらに冨岡は『アメリアはバルメディ家から金を借りている』という情報を追加した。

 ジルホークからすれば、アメリアを手にいれるために金を貸しているという状況を崩したくないだろう。そんな中、この街である屋台が爆発的な人気を得た。その屋台にアメリアが関わっているとなれば、借金の返済が為され、自分とアメリアの関係が途絶えてしまう。

 それを危惧したジルホークが出る行動は一つだ。


「この屋台を潰すことで、アメリアさんを窮地に立たせ、その上で再び自分のものになるよう強要する。そんなところでしょうね、ジルホークの思惑は」

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