第203話 護衛ゴルザード
一旦、移動販売『ピース』のカウンターを閉じ、外から見えない状態で冨岡、ゴルザード、男の三人で机を囲んで座る。
「あの、店を閉めても大丈夫なのでしょうか?」
男の両手を掴んだまま、ゴルザードが冨岡に問いかけた。
冨岡はため息をついてから、目を細める。
「大丈夫なわけないでしょう、大損害ですよ。けど、仕方ないでしょう。ゴルザードさんの身なりを見れば、貴族様の護衛だとすぐにわかるって、アメリアさんが言うんですから。そんな人が誰かを捕らえているんです。そりゃ、誰も近寄らなくなりますよ」
「すみません。お役に立とうと思ったのですが、ご迷惑を・・・・・・」
申し訳なさそうに俯くゴルザードだが、男を掴んでいる手は緩めない。
冨岡としても、ゴルザードが自分の為に動いてくれたとわかっているので、状況を受け入れる。
「いえ、助けてくれようとしたのは分かってますし、もういいですよ」
そう冨岡が答えると、ゴルザードは安心したように息を漏らした。
状況が暴れ馬のように荒れてしまったので状況を確認すると、ゴルザードの登場によって屋台の周囲にいた客たちがザワザワと騒ぎ始めたのである。
その状況では営業を続けられない、と冨岡は閉店を決断。
どのみち、もう少し客が落ち着けば閉店する予定だったので、それほど影響はない。ゴルザードに『大損害』だと伝えたのは、ちょっとした嫌味だった。
護衛をしてくれていたと考えれば感謝をすべきなのだが、勝手にされていれば監視と同義である。軽い嫌味を漏らすくらい許してほしい。
予定よりも早く閉店した移動販売『ピース』はその後の予定も早めることにし、アメリアとフィーネは売れ残ったハンバーガーを持って貧民街に向かった。
当然ながら、二人だけで移動させるのは危険かもしれない、と冨岡は止めたのだが、アメリアは「大丈夫ですから」と引かない。
そこでゴルザードが「自分と一緒に護衛任務についていた者がおりますので」とキュルケース家の護衛を一人、アメリアに同行させることで貧民街の方は任せることとした。
何故、キュルケース家が冨岡に護衛をつかせていたのかは一度置いておき、話を進めようと決意した冨岡。
そして現在、クレーマー改め襲撃犯人である男の取り調べを始めたのである。
「それで、何の為にこの屋台を襲ったのか・・・・・・この後に及んで隠すわけにはいかないだろ?」
少し強めに冨岡が問いかけると、男は必死に頷いた。首が取れそうな勢いだ、と冨岡は苦笑する。
「あ、ああ! 何でも話す。だから家族だけは!」
男を落ち着かせるために冨岡が優しく微笑もうとした瞬間、何よりも早くゴルザードがドスの効いた声で空気を断ち切った。
「ふざけるな! キュルケース公爵家の客人であるトミオカ様に対する狼藉を許すわけにはいかん! それ相応の罰を・・・・・・」
「ちょちょちょ、ゴルザードさん? やめてください、話が拗れますから」
「し、失礼しました。それでは無罪放免ということで?」
「極端か! とりあえず話を聞いてからにしましょうよ」
男との話よりもゴルザードの方が疲れる。だが、ゴルザードに関しても受けた指示に対して真っ直ぐすぎるだけなのだろう、と冨岡はため息をついてから男に向き直る。
「俺はアンタを罰したいなんて思ってないよ。アンタは知っていることを全て話して、金貨二枚持って家族のところに帰る。それだけだ、わかるな?」
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