第202話 介入

 そう言われた男は歯を食いしばり、冨岡を睨み返した。


「どうすりゃいいってんだよ! 俺がこの仕事をこなさなきゃ・・・・・・家族は! 俺が死ねば事実は消える。死なせてくれ!」

「・・・・・・・どういうことですか?」

 

 男の口から出てきたのは、冨岡の想像よりも重い言葉だった。

 わかったのは男が単純に『金目的ではない』ということである。

 戸惑いの中、冨岡は反射的に男の手を押さえようとした。腕の太さを考えれば、冨岡の力で押さえつけられるはずがない。それでも手が動いたのは『男が困っている』と判断した上で『優しさの反射神経』が作用した結果だった。

 冨岡が男の手に触れた瞬間、彼の視界に何かが入ってくる。

 

「トミオカ様! 離れてください!」


 叫びながら何者かは即座に男を取り押さえ、両手を後ろで固定しカウンターに叩きつけた。

 男は内臓を揺らされたように「うぇ」と漏らし、カウンターの上で身動きができなくなる。

 何が起きたのか理解が追いつかない中、冨岡は何者かを睨みつけた。


「何をしてるんですっ・・・・・・か?」


 語尾が懐疑的になったのは、何者かに見覚えがあったからである。

 

「大丈夫でしたか、トミオカ様。ギリギリまで見ているように言われていたのですが、トミオカ様に危害が及ぶと判断し、介入させていただきました」


 そう話したのは、冨岡がキュルケース公爵家に出向いていた時、代理で移動販売『ピース』の護衛を務めていた男だった。

 その姿を確認した途端、アメリアが彼の名前をつぶやく。


「ゴルザードさん」


 状況的にそんなことを考えている場合ではないのだが、アメリアが他の男の名前を呼ぶのは快くない。

 そんな気持ちを抑え、冨岡はゴルザードに問いかける。


「えっと、キュルケース公爵家の方ですよね? 一体これは・・・・・・」


 問いかけてみたものの、先ほどの言葉からある程度推測できた。

 おそらくはキュルケース公爵家からの指示だろう。冨岡にバレぬよう、冨岡の警護を務めていたというところだ。

 その推測通り、ゴルザードは「ダルク様の指示でして」と答える。


「ダルクさんの・・・・・・こっそり俺のことを守ってくれていたんですね」


 そんな二人の話を聞いていた襲撃犯の男は、みるみるうちに青ざめた。


「ま、まさか、本当に公爵家が・・・・・・頼む! 家族にだけは手出ししないでくれ」


 男がそう懇願するとゴルザードが首を傾げる。


「あの、この男は何を言っているのでしょうか?」


 ゴルザード視点では男が冨岡を脅していたように見えていた。そのはずなのに、何故か男の方が家族には手を出さないてくれと怯えている。

 どう説明すればいいのか、と悩んだ挙句、冨岡は困り顔のままこう提案した。


「とにかく、ここでは目立ちますので、屋台の中でお話ししましょうか」

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