第191話 貧民街の病

「安価・・・・・・こんなに美味しいものが、安く手に入るんですか。では今後これを主食にするということですね。私は賛成です」


 どうやらアメリアはシリアルの説明を受け、自分たちが食べるものを倹約していこうという意味だと解釈したらしい。

 そんなアメリアの言葉が可笑しくなり冨岡は口角を上げて、首を横に振った。


「ははっ、違いますよ。まぁ、シリアルを朝食の定番にするのはいいと思うんですけど、俺が言いたかったのはそうじゃなくて。空腹を満たすだけじゃない食事の大切さというか・・・・・・これは順を追って話した方が良さそうですね」


 冨岡が伝えたかったことは栄養面から見る食事の大切さである。

 この世界の人々が中世ヨーロッパ程度の生活をしているならば、一般市民や貧民と呼ばれる層は栄養が不足している可能性があった。

 いや、冨岡が元いた世界でも貧富の差は大きく、飢えて栄養が不足している人々は少なくない。

 それは推測や想像でしかないが、シリアルのパッケージ裏を見て思いついたのだ。


「食事はお腹を膨らませるだけでなく、体を作る大切な要素なんです。俺たちの体は食べたものに大きく影響されますからね。まぁ、栄養については今思いついたことなんですけど、それについて聞きたいことがありまして」

「何でしょうか?」

「昨夜話していた貧民街で食事を配っていたんですよね?」

「ええ、この教会がまだ活動できていた頃の話ですが」


 アメリアの返事を聞いた冨岡は、少し考えてから言葉を続ける。


「もしかすると貧民街で『何人か同じような症状』が出ている方はいませんでしたか?」


 栄養不足によって引き起こされる症状を知らない冨岡は『同じような』という曖昧な問いかけ方しかできない。

 何かと同じ、ではなく、何人かが共通の症状が出ていないか、という問いかけである。


「同じような症状、ですか。貧民街で流行っていた病という意味であれば少し心当たりがあります。体の表面に湿疹のようなものが現れ、体調を崩す方が多くいらっしゃいました。流行病として領主様が調査されたのですが、貧民街の方々にしか発症していなかったため調査は打ち切りになったと覚えています」


 人から人に感染する病であれば、貧民街以外にも影響があるかもしれない。しかし、貧民街でしか発症していないのであれば調査する必要がないということだろう。

 この世界ではそれが合理的とされているのか、と冨岡は胸に何かが刺さったように痛みを感じた。


「湿疹ですか・・・・・・少し調べてみないと栄養的な問題なのか、衛生的な問題なのかわかりませんが、今すぐ解決できるのは栄養面ですね。ということでこのシリアルも大量に仕入れてくるので配りませんか」

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