第190話 冷たくて甘い

 牛乳に浸ったシリアルは、水分を纏いキラキラと輝いていた。

 それらは侵入してくるスプーンを優しく受け入れ、大人しく掬われる。

 フィーネはまじまじとシリアルを眺めてから、優しく口を開いた。


「いただきます」


 口に入れると牛乳に溶けた甘味が一気に広がる。その甘味は、まだ慣れていないフィーネの脳を痺れさせるには十分だった。

 冷たくて甘い。そんな感想を述べるため、フィーネは口の中を片付けようとシリアルを噛み砕く。すると細かくなったシリアルの香ばしさが甘みに合流して、一層風味を引き立てた。


「うわぁ、美味しい! フィーネ、これ好き!」

「それは良かった。シリアルは俺の国でも朝食の定番になってるものだよ。パンや米にも負けないくらい魅力的な食べ物だ」


 冨岡はそう答えながらアメリアの分も用意する。

 

「どうぞ、アメリアさんも朝食にしてください」


 呼びかけるとアメリアは優しく微笑み一瞬手を止めた。


「もう少しで野菜を切り終えますから、終わってからでもいいですか? トミオカさんは先に食べててください」

「それじゃあ俺も手伝いますよ。二人でやればすぐです。それに食べながら話したいこともありますし」


 そう言ってから冨岡は、予備の包丁を手にしてアメリアの隣に立つ。

 

「えっと、レタスの方は終わってるみたいだから、あとはトマトだけですね」


 二人で協力し、今日の営業分を準備し終えた二人はフィーネが食事を続けている食卓に合流した。

 先ほど準備してしまったシリアルは、牛乳が染みふにゃふにゃになってしまったので冨岡用にしてアメリアには新しい物を用意する。


「さて、じゃあ俺たちも朝ご飯にしましょうか」

「はい!」


 初めてシリアルを食べたアメリアの反応は概ねフィーネと同じようなものだった。目を見開き、表情で美味しさを伝えている。

 フィーネと違うのは、アメリアが美味しさを言葉で表現する点だ。


「本当に美味しいですね、これ。冷たくて、甘くて、香ばしくて・・・・・・他にはない味と食感です。クセもなく飽きも来なさそうですね。先ほど仰っていましたけど、栄養価も高いんですか?」

「おお、いい質問ですね。そうなんですよ、シリアルは食べやすく栄養価が高いんです。ビタミン、鉄分、食物繊維を筆頭に様々な栄養素がもう、六角形です」

「六角形?」


 冨岡はシリアルのパッケージ、裏面に書いてある栄養グラフを見ながら説明した。綺麗に六角形を描くグラフは栄養価の高さを物語っている。だが、こちらの世界で生きてきたアメリアには伝わらない。

 そんなことはさておき、冨岡は話を進める。


「シリアルを見て思いついたんですけど、これって多少保存が効いて栄養価も高く割と安価な物なんですよ」

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