第189話 溶け出す甘さ
昨夜話していた通り、早朝のうちにアメリアがパンを引き取りに行ってくれたらしく、既に屋台の中にパンの入った木箱が積まれている。
もちろんパンの代金は、これまでの売り上げから支払っていた。
誤解のないよう説明するが、アメリアが勝手に売上金を持って行ったわけではない。移動販売『ピース』開店初日に冨岡とアメリアは打ち合わせを行なっていた。
店にとって必要なものを購入するときは売上金を入れた金庫から持ち出すこと。
それ以外の個人的な購入品は、給与として定期的に手渡すことになっている分から出すことになっていた。当然、フィーネにも支払うが彼女が大人になった時のためにアメリアが貯蓄に回す。
アメリアの借金については冨岡に考えがある、と一旦保留となっていた。
「おはようございます、アメリアさん」
まだ覚醒しきっていない冨岡が屋台の外からアメリアに話しかけると、彼女は一度手を止めて笑みを浮かべる。
「おはようございます」
「すみません、もうすっかり準備してもらってますね」
「ふふっ、昨夜は遅かったでしょうし、私たちにできることは任せてください」
そう言われた冨岡はあくびを噛み殺し、伸びをした。
「じゃあ、屋台の準備はこのままアメリアさんにお任せして、俺は朝食の準備をしますね」
さて、今日の朝食は。
掃除を終えたフィーネと一緒に屋台に乗り込んだ冨岡は棚を漁る。
「えっと、この辺に置いたはず・・・・・・っと、あったあった」
「何探してるの? パン?」
下からフィーネがほぼ真上を見上げながら問いかけてきた。
「ううん、違うよ。シリアルさ」
「シリアル?」
朝食を準備するとは言ったものの、何かを作るわけではない。スーパーで買ってきたシリアルに牛乳をかけるだけだ。
数種類の味を買って保存しておいたのだが、パッケージに印刷されている『チョコレート』の文字を確認した冨岡はあの日のことを思い出し、手を止める。
チョコレートを食べたアメリアたちは酩酊に近い状態となり、まるで媚薬でも飲んだかのように見えた。
「味付けくらいなら・・・・・・いや、やめとこう」
結局冨岡が選んだのは、甘いコーティングのされているごく普通のシリアルだった。
パッケージを開け、中身を見せるとフィーネは首を傾げる。
「大きな麦?」
「ははっ、形はそう見えるかもしれないな。これは穀物を練って焼いたもの・・・・・・だと思う。多分。簡単に食べられるし、栄養価も高いんだ」
「美味しい?」
「そのまま食べても甘くて美味しいんだけど、それじゃあお菓子みたいになっちゃうからこうして食べるんだよ」
冨岡は説明しながらシリアルを深めの皿に入れ、冷蔵庫から取り出した牛乳をかけた。
シリアルに施された甘いコーティングが溶け、牛乳に染み出していく。
そのままフィーネにスプーンを手渡すと、冨岡は優しく「食べてごらん」と促す。
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