第181話 何でも屋の美作

 ガラス越しに名刺を見ながら冨岡が言葉を繰り返した。

 美作と名乗った男の言葉通り、名刺には『何でも請け負います。何でも屋美作』と書かれている。その下には『美作 傑』という名前と、下山した所にある街の住所も記されていた。

 それを見る限り、何でも屋であることは信じても良さそうである。


「そう、何でも屋だ。猫探しから浮気調査、好きな女の子のタイプを調べることまで何でも請け負ってるぜ」


 しかし、警戒心を解くかどうかはまた別問題だ。

 窓を開けないまま冨岡が問いかける。


「そんな何でも屋さんが、夜中にこんな山奥で何をしてるんですか。しかもシャベルを持って」

「そりゃあ、土を掘ってたに決まってるだろ。それ以外に何があるってんだ」


 美作の答えを聞いた冨岡は、この人とは会話のリズムが合わないのだと諦めて丁寧に問いかけ直した。


「じゃあ、なんで土を掘ってたんですか?」

「仕事に決まってるだろうよ。俺が趣味で山中の土を掘るように見えるか?」

「わかりませんよ。どんな人かも知らないですから」


 冨岡はそう答えながら改めて美作の風貌を確認する。

 最初の印象通り二十代半ばだろう男だ。乱雑な長髪と無精髭が怪しさを増している。

 そんな視線に気付いたのか、美作は仕方なく自分のことを話し始めた。


「どんな人って、この通り気さくな色男だよ。つい心を開いちまうだろ。依頼人の信頼を得ることが何でも屋の最低条件だからな」


 じゃあ、今すぐ俺の信頼を得られるようにしてほしい、と願う冨岡。

 そんな願いが通じたのか、美作はもう少し詳しく話を続ける。


「アンタは俺が何かヤバいものでも埋めてたと勘違いしたみたいだが、むしろ逆だぜ。流石にそんな仕事は請け負ってねぇよ。俺がしてたのは土の採集だ」

「土の採取・・・・・・ですか?」

「ああ、まだ一般人は知らないだろうが、もうすぐこの山で大規模な工事が行われる。それを取り仕切る会社から依頼を受けて、急遽仕事に来たってわけさ。明日にでも土の成分表か何かが必要らしい」


 説明を聞いた冨岡は、この山を売った時のことを思い出した。

 この山で行う大規模な工事は、冨岡が聞かされたあの話で間違い無いだろう。


「ああ、木坂建設でしたっけ?」

「どうしてアンタが知ってるんだ? この話はまだ関係者しか知らないはずだ。誰から聞いた?」

「いや、さっき言ったじゃないですか。元々この山は俺の祖父が持っていて最近売ったって」


 呆れ気味に冨岡が言うと美作は気にしてない様子で口角を上げた。


「そうだったか? 細かいことを気にする男だな」


 釈然としないという言葉を使うのは今だろうな。

 そんなことを思いながらも冨岡は話を進める。


「それで、協力って何ですか?」

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