第182話 最終日の少年
「今言ったが俺は今、この山の土を採取している。依頼主はこの山の様々な場所の土をお求めでな。基本的にはこの山は依頼主のものになっている」
「木坂建設ですよね。まぁ、ほとんど売りましたから」
「うん? どうして俺の依頼主が木坂建設だと知っている。アンタ一体どこでそれを」
「もういいです、日本語が通じないようなので失礼します」
冨岡は呆れ顔でハンドルを握り直した。
流石にふざけすぎたと自覚したのか美作は宥めるように「まぁまぁ」と笑みを浮かべる。
「アンタがこの山の持ち主だったから知ってんだよな。わかってるわかってる。ちょっとふざけてみただけだよ、冗談の通じねぇ男だな」
「こんな夜中の山奥で通じる冗談なんてありませんよ。いいから話の続きをお願いしますよ」
口調からもわかるように、冨岡が感じていた恐怖は段々と苛立ちに変わっていた。
美作側もふざけるのに飽きたのか素直に話を続ける。
「まぁ、だからな? 色んな場所の土を採取したいわけだが、山頂の付近だけはその土地の持ち主に許可を取ってくれって言われてたんだ。しかし、こんな時間だろ。つーわけで困ってたのさ。土を提出するのは明日の早朝だし、無理を承知で訪問しようかと考えるくらいにはな」
美作の事情を聞いた冨岡は若干だが同情した。
「それは大変ですね。急遽頼まれて、明日には提出。こんな時間では土地の持ち主を起こすのも気が引けるはずですし」
名刺を見る限り、美作は一人で何でも屋をしているのだろう。仕事を続けていくには大きな企業からの無理難題も受けなければならない。
元々サラリーマンをしていた冨岡にも少しだがその苦労はわかる。
「本当に大変ですね、こんな時間に」
「ああ、昼寝しすぎちまったぜ」
「え?」
「え?」
とんでもない情報を聞いてしまった冨岡は、聞き間違いかと思い聞き返した。
「昼寝?」
「ああ、結構寝ちまった。事務所のソファで寝たから肩も首も腰も痛くてたまらないぜ」
「いや、どこで寝てたのかとかはどうでもいいです。え? 大企業から無理難題を押し付けられたとかじゃないんですか。生きていくためにはどうしても断りきれず、みたいな」
「全然違う。後でいいかと思ってたら、明日提出だったんだ」
「夏休み最終日の小学生ですか、アンタは」
「男はいつまでも少年の心を持ってなきゃな」
この会話を経て、冨岡は美作のいい加減さを知る。
自業自得じゃないか。むしろ、無理難題を押し付けたのかと疑った木坂建設に謝りたい気分である。
「何言ってるんだ、この人は。それで、協力って土を採取したいって話ですよね?」
「ああ、そうだ。すまないがアンタの家の周りで土を取らせてくれねぇか」
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