第175話 先行投資
自信に満ち溢れた冨岡の言葉はアメリアの心を揺らす。
冨岡を信じて進めば、道が開かれると思い始めた。
考えようによっては危険な状態とも言える。誰かを盲信してしまうと自分で考えることを放棄しかねない。しかし、アメリアはお金に対して不安を抱え続けてきた。ここから先、進んでいくには無理にでも『お金は回すもの』だと認識する必要がある。
先行投資が必須とまでは言わないが、お金の使用を必要以上に恐れて大切な機会を失うなんてことは多々あることだ。
冨岡はアメリアの心から必要以上の不安を取り除こうとして、力強い言葉を選んだのである。
その効果があり、アメリアは素直に頷いた。
「トミオカさんがそう言うなら・・・・・・確かに店を続けていくのなら、人を増やしていかないといけませんもんね。今のままでも私たちが食べていく分には困りませんけど。行き場のない子どもたちを救うにはまだ足りません。いつかは人を雇わなければならないタイミングがくる。それが今ってだけですよね。それに雇用が生まれれば、喜ぶ人もいるはずです」
彼女の心から不安が完全に消えたわけではないが、ある程度納得した様子である。
更にアメリアは言葉を続けた。
「そういえば、人を雇うと言っても心当たりはあるんでしょうか。あ、トミオカさんの商人仲間にご紹介して頂くとか?」
「全くないですね」
「え、ないんですか? てっきり、雇う人まで決まっているのかと思ってました」
自信ありげに雇用案を提示した冨岡が、全くの無策であったことに驚くアメリア。
冨岡からすれば、今日一日を終えて従業員の必要性を感じ提案した話である。
「いやぁ、全然決まってないですね。むしろアメリアさんにいい人を紹介してもらいたいくらいです」
「私の知り合いですか・・・・・・この街で育ってきたので、知人はいますけどそれぞれ今の仕事があるはずです。誘える人がいるかどうか・・・・・・」
「うーん、じゃあホース公爵様に紹介してもらいましょうか。あの人の紹介なら安心できますもんね」
この世界で冨岡が持っている少ない人脈の一つ、キュルケース公爵家。アメリアの知人を頼れないとなれば、ホースの名前が出るのは当然だろう。
冨岡がそう話した瞬間、アメリアは大きく首を横に振った。
「駄目ですよ。絶対に!」
「え、駄目ですかね?」
「駄目です。貴族様に紹介して頂くとなれば、相手の身分もある程度高くなってしまいますよ」
なるほど、公爵家が何も知らない庶民を紹介してくるとは考えにくい。例えばプロの料理人を紹介されれば、貴族家が払うほどの賃金が必要になる。
アメリアが止めた理由を察した冨岡は再び悩み始めた。
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