第174話 先立つ物

 先立つ物というようにファンタジーな異世界だとしても現実問題、お金がなければ何もできない。

 お金の本質が何か、と問われても冨岡に正しい答えなど出せないが、少なくとも『時間』を得られる。

 お金さえあれば自分で屋台に立たず、従業員に任せることで次の段階に進むことが可能だ。

 そんなことを考えながら冨岡がハンバーグの仕込みを終えたところで、アメリアが屋台に戻ってくる。


「お待たせしました」


 フィーネが眠ったのを確認してから慌てて屋台に向かってきたのだろう。彼女は乱れた前髪を直しながら入ってきた。

 仕込みを終えた冨岡が手を洗っている様子から、間に合っていないのだと気づいたアメリアは申し訳なさそうにポカンと口を開く。

 逆に冨岡は彼女の表情から気持ちを察して微笑んだ。


「ははっ、急がなくても良かったんですよ。ハンバーグの仕込みは終わったので、あとは野菜を仕入れてこないとな。パンは明日の早朝にメルルさんのところに取りに行きましょう」


 冨岡がそう言うと、何か役に立ちたいとアメリアは手を挙げる。


「はい! パンは明日の早朝に私が取りに行ってきます!」

「いやいや、俺が行きますよ?」

「だって、トミオカさんは今から野菜の仕入れに向かわれるじゃないですか」


 アメリアは、冨岡が元の世界にある二十四時間営業のスーパーで野菜を買っていることなど知らない。しかし、冨岡が仕入れと言ってどこかに向かうと、それから数時間は帰ってこないことを知っている。

 今すぐ買い出しに向かったとしても、帰ってくるのは深夜。下手をすれば朝になるだろう。

 早朝、冨岡がメルルズパンにパンを仕入れに行くとなれば、ほとんど寝る時間はない。

 アメリアの気遣いを感じた冨岡は、これ以上彼女が負い目を感じないよう受け入れる。


「じゃあ、お願いしますね」

「はい、任せてください!」


 この後の予定が決まったところで、冨岡は先ほど考えていた内容を切り出す。


「そうだ、アメリアさん。今、少し時間もらってもいいですか?」

「え? はい、大丈夫ですけど、どうかしましたか?」

「これからのお話をしたいなぁ、と思って。ほら、これからこの教会を大きくしていく中で、今日みたいに俺が離れることもあると思うんですよ。そうなった時に店を閉めずに済むよう授業員を雇おうと思うんです。贅沢を言えば、傭兵を雇いたかったんですけど、今の売り上げでは赤字になってしまうので・・・・・・とりあえず調理と接客ができる人を一人」


 冨岡の提案を聞いたアメリアは少し複雑そうは顔をした。

 

「新しい方を・・・・・・その、もしも私がもっと頑張れば雇わずに済むでしょうか?」


 これまで金銭に苦労してきたアメリアからすると、出費が増えるのは不安なのだろう。もちろん、移動販売『ピース』の売り上げが減っていかない保証はないが、今の状態であれば従業員を一人雇うくらいならば問題ない。

 彼女はそれをわかっているものの、不安が拭いきれないといった様子だ。

 冨岡はアメリアの憂いを取り除くために優しく微笑む。


「アメリアさん。人は働くために生きてるんじゃなく、生きるために働くんですよ。しっかり休みが取れるように適正な人数を用意するのは、当然なんです。自分たちに余裕がない状態で困っている子どもたちを助けることができますか?」

「それは・・・・・・そうですけど」

「お金のことなら俺が何とかします。信じてください」

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