第167話 優しさの系譜
唐揚げという名前を聞いて『可愛らしい』なんて、先入観のない意見だな、と冨岡は頬を緩めた。どちらかというと雄々しいイメージが先行する。それは味とカロリーを知っている者の感想だ。
「ははっ、唐揚げも熱いので気をつけてくださいね」
冨岡がそう言うとアメリアは唐揚げに齧り付く。
カリッとした衣が音を立てて破れ、封じ込められていた肉汁が一気に溢れた。
「ん!」
思わず感動を一音で漏らすアメリア。
柔らかくも噛みごたえのある鶏肉は、噛めば噛むほどに旨みが広がる。その中に唐揚げ粉のスパイスが混じり、唐揚げでしか生まれない感動を作り出していた。
一口分を食べ終えたアメリアは星のように輝く瞳を冨岡に向ける。
「す・・・・・・っごいですね、唐揚げ!」
どうやら彼女は唐揚げを気に入ったようだ。
溜めたなぁ、と笑みながら冨岡は頷く。
「美味しいですよね、唐揚げ。俺も大好物です。というより、多くの人が好きな食べ物としてカウントしますよ。おかずにも、おつまみにもなりますからね。子どもから大人まで大人気なのは間違いありません」
冨岡がそう話すと、アメリアは首が取れるのではないかというほど縦に振った。
「ですよね、ですよね。本当に美味しいです。二つの食感から生まれる楽しさと、それぞれの味付け。香ばしさと旨みの応酬。なんて完成された料理なんでしょうか」
料理コメンテーターの方でしょうか、と思うほどアメリアはしっかりと感想を述べてから二口目に入る。
その感動は二口目になっても薄れないらしく、アメリアは飛び出すのではないかと心配になるほど目を見開いた。
これほど喜んでくれれば作った冨岡にとっても喜ばしい。
冨岡もチャーハンを食べながら、二人を見守る。
余談ではあるが富岡の中でグラタン、唐揚げ、チャーハンに順位をつけるなら一位は断然チャーハンだ。それは源次郎の得意料理であったことが大きく関係している。
手間のかかるグラタンよりも、油を大量に使う唐揚げよりも、手軽に作れるチャーハンが食卓に並ぶことが多かった。
子どもの頃は、またチャーハンだと思い辟易したものだが大人になり一番恋しくなるがチャーハンだったのである。冨岡にとって『母の味』と呼べるものがこのチャーハンだ。
自分で作ったチャーハンだが、味付けは源次郎から学んだもの。
「うん、美味い」
食べながら冨岡は源次郎の顔を思い浮かべる。自分に家族を教えてくれた祖父を。
源次郎がいたからこそ、源次郎が優しい心を継いでくれたからこそ、目の前の景色がある。
アメリアやフィーネが美味しい美味しいと笑顔を浮かべるこの景色を作ってくれたのは、源次郎だ。
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