第166話 唐揚げの響き

 そう話すアメリアに、冨岡は不思議そうな表情を向けた。その表情に擬音をつけるとするなら、キョトンだろうか。


「そりゃそうですよ。もう家族みたいなものじゃないですか。それに俺はフィーネちゃんに命を救われていますからね。返しきれない恩がある、心配するのは当然ですよ」

「ふふっ、フィーネ自身はしたいことをしたいようにしただけだと思いますよ。でも、トミオカさんがそう考えてくれることは、フィーネにとって最大の幸福でしょう」

「そうですかね?」

「そうですよ」


 目を引くほど綺麗な唇が嬉しそうに形を変える。

 どうやらアメリアは相当ご機嫌らしい。

 二人でそんな話をしていると、フィーネは待ちきれないといった様子でスプーンを握りしめていた。

 それに気づいた冨岡は自分の分のグラタンも取り分けて、手を合わせる。


「じゃあ、食べましょうか。二人とも火傷しないように気をつけてくださいね。いただきます!」

「いっただっきまーす!」

「いただきます」


 アメリアもフィーネも冨岡の動きを真似て手を合わせた。食事の度に冨岡がそうするので、それがマナーなのだと既に受け入れている。

 最初に動いたのはフィーネだった。先ほど、冨岡に止められた時からずっとグラタンが気になっており、スプーンで掬った分に強めの息を吹きかけてから頬張る。

 それでもグラタンのしぶとい熱は取りきれなかったらしく、慌ただしく吐息を漏らした。


「あふっ、あふっ、ふーふー」

「ほら、熱いって言ったじゃないか。これ飲んで」


 軽く笑いながら冨岡がお茶を勧める。しかし、フィーネは首を横に振ってからなんとかグラタンを飲み込んだ。

 どうやらグラタンの味をお茶で薄めたくなかったらしい。


「んー! おいっしい! なにこれなにこれ! トロトロしてて、モキュモキュしてて、サクサクで、甘くてしょっぱくて」


 体全体で美味しさを表現しながら、口の中で得た情報を順番に説明するフィーネ。

 あまりにも嬉しそうなので、冨岡も釣られて笑う。


「ははっ、モキュモキュはマカロニのことかな? 甘いのは多分玉ねぎだね。気に入ってくれたみたいでよかったよ」

「すんごく美味しい! フィーネこれ好きなやつ。今日からこれがフィーネの大好物だよ」


 言いながらフィーネはもう一口、また一口と勢いよく食べていく。小さな体で変わらない吸引力を思わせる速度。よほどグラタンが気に入ったのだろう。

 フィーネを眺めながら、アメリアは唐揚げに手を伸ばした。


「せっかくですから、私はこちらから。油で揚げていましたよね。なんて豪華な料理法なのでしょう」


 苦戦しながら唐揚げをスプーンで掬おうとするアメリア。金魚掬いのようだ、と笑いそうになりながら、冨岡はフォークを手渡す。


「アメリアさん、これを使ってください。ちなみにこの料理の名前は唐揚げですよ」

「ありがとうございます。カラアゲですか。可愛らしい響きですね」

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