第165話 チーズのように熱く溶けて
グラタン、唐揚げ、チャーハン。
冨岡が考える豪華な労い料理を全て机の上に並べ、三人で囲む。
アメリアもフィーネもそれぞれしていたことを切り上げて、机の上にある料理に目を輝かせた。
「どれも初めて見る料理ですね。この料理は少しミルクの様な香りがしますね」
言いながらアメリアはグラタンに視線を送る。
それがチーズのことなのか、ホワイトソースのことなのか、はたまた両方のことなのか冨岡にはわからなかったが、牛乳が含まれていることは間違いない。
「それはグラタンです。子どもから大人まで、幅広い世代に人気の料理ですよ。今から取り分けますね」
大きな耐熱皿のまま机に置かれたグラタンを、冨岡がそれぞれに取り分ける。
普通の物よりも大きめのスプーンで掬うと、一気に湯気が上がり香りも広がった。それと同時に溶けたチーズが伸びて、視覚的にも食欲を刺激する。
冨岡の予想通り、フィーネは伸びたチーズを目でなぞりながら口角を上げた。
「うわぁ、すごい! これってケーゼだよね。こんなケーゼ初めて見た!」
「ケーゼ?」
そう聞き返しながら冨岡は、この世界ではチーズをケーゼと呼ぶのだろう、と察し頷く。
「え、ああ。そうだよ、これは溶けやすいケーゼなんだ。焼き目がついている部分はサクサクとしてて美味しいよ」
取り皿に乗せたグラタンをフィーネの前に置くと、彼女は我慢できないといったようにスプーンを掴んだ。
まだ食事を始めると言っていないのに食べ始めた彼女を止めるため、アメリアが口を開こうとする。しかし、存外にもアメリアより先に冨岡が声を上げた。
「ダメだよ、フィーネちゃん!」
「え、あ・・・・・・ごめんなさい」
フィーネにとっても冨岡に叱られるのは予想外だったらしく、驚いてから肩を落とす。
だが、冨岡にそんなつもりはなかった。
「あ、大きな声を出してごめんよ。怒ったつもりはなかったんだ。この料理はすごく熱くて、いきなり食べると口の中を火傷しちゃうんだよ。俺も子どもの頃、グラタンに飛びついてたから気持ちはわかるけどね。フィーネちゃんが火傷するのを見過ごせはしないよ」
幼いながらにフィーネは、冨岡が自分のことを心配して叱ってくれていることを感じ取り、素直に頷いた。
「そうなんだ、トミオカさんもフィーネと同じように・・・・・・止めてくれてありがとう! ちゃんと冷ましてから食べるね」
冨岡は、しっかりと理解し受け止めてくれたフィーネに優しい笑みを送り、アメリアの前にもグラタンを置く。
二人のやりとりを見ていたアメリアは、意外だったという表情を浮かべ冨岡に問いかける。
「トミオカさんが感情的になることもあるんですね」
「え、あ、すみません」
「いえ、むしろフィーネを叱ってくれて感謝しているくらいです。トミオカさんの言葉だからこそ、フィーネも素直に受け入れましたし・・・・・・そうではなくて、いつもの優しい口調よりも厳しい物だったことに驚いたんです。いや、嬉しかったんです。本気でフィーネのことを考えてくれているんだな、って」
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