第159話 影三つ

 発車したフォンガ車を見送りながらフィーネが「帰っちゃったの?」と冨岡を見上げる。


「気を遣ってくれたみたいだね」


 そう答えてから、冨岡はフィーネの手を握った。小さいながらにしっかりと働いてくれたフィーネを労うように優しく包み込むと、強く握り返してくる。


「へへっ」


 嬉しそうに微笑むフィーネの顔が、消えかけの淡い夕日に照らされて輝いた。

 

「トミオカさん、お帰りなさい」


 駆け寄ってきたアメリアは夕日と同じ色の頬を緩ませて言う。


「あの・・・・・・」


 今後のために貴族との繋がりが必要だったとはいえ、二人に慣れない屋台を任せてしまったのだ。申し訳なさを感じ、思わず謝罪しようとした冨岡。

 だが、握っているフィーネの手は、そんなものを求めていないのだと何故か確信が持てた。

 伝わってくるのは、自分を家族だと思ってくれている安心感。必要としてくれたことへの喜び。

 おそらくアメリアもフィーネと同じ気持ちだろう。

 そんな相手に謝罪するのは、果たして最適と言えるだろうか。いや、違う。必要なのは謝罪ではない。

 冨岡は優しく微笑み、アメリアにこう伝える。


「今日はありがとうございました。おかげで未来に希望を繋げられたと思います」


 するとアメリアは嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべた。


「ふふっ、それなら良かったです。貴族様のお屋敷はどうでしたか・・・・・・っと、そんな話は帰ってから、ですね」


 屋台の片付けが先だろう、とアメリアが話を引き上げると続いてフィーネが冨岡に話しかける。


「フィーネも頑張ったの」

「そうだよね、フィーネちゃんもありがとう。よし、今日の晩御飯は豪華にしようか」


 労いの気持ちを込めて冨岡が言うと、フィーネその場で跳ねる。


「わーい! フィーネは美味しいものが食べたいの。あと、甘いもの」

「ははっ、美味しいものか。材料を見ながら考えようね。それと、チョコレートはナシだよ」


 その後、冨岡も片付けに協力し手早く屋台を撤収した。

 もちろん話を続けたい気持ちはあったが、話の途中で引き上げてくれたアメリアのことを考え、続きは帰ってからにしようと考えたのである。

 屋台や周辺の掃除を終えると冨岡が屋台を動かし始めた。

 だが、これまでとは違いアメリアとフィーネも屋台の外にいる。


「あれ、乗らないんですか?」


 そう冨岡がアメリアに問いかけると、彼女は優しく頷いた。


「はい、今日は一緒に歩きたい気分なんです」

「フィーネも!」


 すっかり暗くなった帰り道に、月の輝きが三人と屋台の影を映す。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る